母の家で見つけた、何十枚もの「添削済み答案」
ある日の午後、和也さん(仮名・54歳)が79歳の母・久美子さん(仮名)の家を訪れると、居間のテーブルいっぱいに紙が広げられていました。
赤ペンでびっしりと書き込みがあり、横には数十枚の封筒。パソコンの画面にはオンライン会議の予定が並んでいます。
「何してるの、これ?」
和也さんが尋ねると、久美子さんは少し困ったように笑いました。
「実は、まだ働いているの」
和也さんは、母はとっくに仕事を辞め、月8万円ほどの年金と貯蓄で暮らしているものだと思っていました。
久美子さんは若いころ、学習塾で国語を教えていました。結婚後はいったん仕事を離れましたが、子育てが落ち着いた40代から自宅で小さな作文教室を始めます。
夫が亡くなったあとも教室を続け、70代に入ってからは対面授業を減らす代わりに、作文や小論文の通信添削とオンライン指導を増やしていました。
「もう数人に教えているくらいだと思ってた」
「それがね、昔の生徒さんが自分の子どもを紹介してくれたりして、なかなか辞められなくて」
現在は小学生から高校生まで約30人を指導。受験期には小論文の個別添削も引き受けています。
月謝や添削料を合わせた売上は、通常の月でも30万円を少し超える程度。受験前には40万円近くになる月もあるといいます。ただし、教材費や通信費などの経費もあり、その全額が久美子さんの手取りになるわけではありません。
和也さんが驚いたのは、金額だけではありませんでした。
「年金が少ないから、節約しながら暮らしていると思っていました。だから帰省するたびに『何か必要なものない?』って聞いていたんです」
久美子さんは、そのたびに「大丈夫」と答えていました。
「だって、本当に困ってなかったから」
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、2024年の労働力人口比率は75歳以上でも12.2%となっており、2015年以降上昇しています。また、65歳以上で定期的または不定期に収入を伴う仕事をしている人は35.6%にのぼります。高齢になってからも働くことは、決して極端に珍しいことではありません。
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