Tさん最大の不安「何が分からないのか分からない」
Tさんが一番苦しかったのは、ここでした。
「誰に、いつ、どんな税金がかかるのか、全体像がまったく見えない。にっちもさっちもいかない」ということです。
母親だけでなく、相談者のTさんと弟2人は役員であり、株主にもなっています。会社の運営には主に次男が関わっています。
そうした状況下にありますので、次のような課題が想定されます。
廃業に伴う税務の不透明さ
営業権の対価が会社に入るのか、清算後に個人(母や兄弟)に分配されるのか。その結果、法人税がかかるのか、所得税がかかるのか、みなし配当になるのかなど対応が変わります。また、段階ごとに税金の種類が変わる可能性がありました。
ここを誤ると、本来払わなくていい税金を、余計に払うという事態も起こり得ます。
現金化が将来の相続税を押し上げるリスク
土地を売却すれば、母親個人の譲渡所得となり、所得税がかかります。さらに、現金が増えれば、将来の相続税評価額が一気に上がる。
「今の税金」と「将来の税金」を同時に見なければならない状況でした。
きょうだい間の温度差とガバナンス不全
長女のTさんは、清算人として全体を背負う役割を担っています。長男は以前は会社に在籍していましたが、次男が取り仕切りたいということになり、現在は会社を離れています。次男は会社に居座り状態で、高給を受け取っているのに、面倒な実務には消極的で、頼れないところがあるといいます。
筆頭株主の母親は、高齢なだけに調整役を果たせる状態ではなく、家族だけで話し合えば、必ず感情論になる状況でした。
労務トラブルの顕在化
家族間のことだけでなく、会社を清算するということは従業員も巻き込む話になります。役員の他に12人の社員がいて、全員に退職をしてもらわなければなりません。父親の代から長年働いている従業員もいるだけに、雇用契約書が曖昧、就業規則も不十分な状態で、しかも全員が現場を担当する男性。
従業員には廃業が決定してから伝えたために寝耳に水状態となり、説明会も紛糾して大変な思いをしたとTさんは話してくださいました。なかには、有給買い取りの要求や「裁判する」という発言などもあり、神経をすり減らしたともいわれていました。
この事例が教えてくれること
私たちが最初にお伝えしたのは、とてもシンプルな一言でした。
「これは、税理士さん1人では解決できません」
今回の問題は、相続、会社清算、税務、不動産、労務など、すべてが連動しています。どこか一部分だけを専門家に任せると、別の場所で必ず歪みが出ます。
だからこそ必要なのは、全体を一つのストーリーとして設計すること。これが、相続実務士の役割です。
このご相談から見えてきたのは、相続は「税金の問題」ではない、同族会社が絡むと難易度は一気に跳ね上がる、家族だけで判断すると、必ずこじれるなどの課題がつきものだということです。そして母親の相続に関しては、「まだ元気なうち」「何も起きていないうち」しか、選択肢はないということです。
同じ立場の方へ
Tさんの業種は特殊な状況に思えるかもしれませんが、高齢の親がいる、同族会社を経営している、廃業や承継を考え始めているのであれば、やはり課題は少なくないと言えます。
相続になってからご相談いただくケースでは、事業承継を決めないまま、株も所有したまま、貸付金も処理しないまま亡くなってしまったということが多々あります。相続になってからでは間に合わないこともあります。
Tさんは清算人の役割ですが、母親、弟たちと相談して決めたいということで決断は持ち帰られました。よかれと思っても事後報告は逆効果にもなりかねません。何事も情報共有し、全員の合意を得ながら進められるようにということもアドバイスしています。
曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
