救急隊員の問いが突き付けた現実
ある日の深夜、都内の賃貸アパートでベッドに入って数時間後、会社員の中村さん(44歳・仮名)は、経験したことのない胸の激痛と息苦しさで目が覚めました。
「これはまずい……」
そう思った次の瞬間、視界が揺れ、全身から力が抜けていきました。中村さんはベッド脇に倒れ込み、そのまま意識を失いました。
しばらくして意識を取り戻すと、震える手でスマートフォンをつかみ119番へ電話。救急隊員によって救急車へと運び込まれた中村さんは、隊員の一人からこう問いかけられました。
「中村さん、一人暮らしですか? ご家族かどなたか、すぐに連絡が取れる方はいますか?」
――思い浮かびませんでした。母親は数年前に他界、父親とは10年以上音信不通。休日を一緒に過ごすような友人もいません。
「――いません」
幸い、診断は命に関わるものではなく、一過性の重篤な不整脈とのこと。しかし、病院のベッドで、中村さんは恐怖と虚しさに襲われていました。
「もしもの時に頼れる人が俺には誰もいない。思い出もない。お金だけあっても、意味ないじゃないか……」
「気づいたら1億円になっていた」会社員の人生
実は中村さん、都内のメーカーに勤める会社員で年収は約650万円ですが、その総資産は1億円を突破している、いわゆる「億り人」です。
20代からインデックス投資を始め、毎月の給与やボーナスから生活費を除いた残りはすべて証券口座へ。リーマンショックやコロナショックの暴落局面でも、淡々と買い増しを続けました。
「1,000万円を超えるまでは長く感じましたが、それ以降は資産が勝手に増えていく感覚でした」
しかし、それほどの資産がありながら、中村さんが住むのは、築35年の木造アパート。1K・ロフト付きで家賃は7万8,000円です。
「古いですが、駅まで徒歩12分だし、近くにスーパーもある。大家さんは家賃を据え置きにしてくれた。なにより、引っ越して固定費を上げるのが嫌だったんです」
日々の生活も極めてシンプル。平日は会社と家を往復するだけ。休日はネット動画や無料のスマホゲームをして過ごし、1円も使わずに終わっていきます。
「外に出れば何かとお金がかかる。部屋でじっとしているのが一番いい。資産管理アプリを眺めれば、それだけで満たされていました」
しかし、あの救急車の夜をきっかけに、中村さんは自分の人生を見つめ直すことに。
「もしあのまま死んでいたら、自分はどうなっていたんだろう。誰も気づかず、何日も放置されていたかもしれない。1億円も、ただ増やしただけで終わり。それだけの人生って何なんだろう。そう思ったんです」

