価値が上がるほど課税も増える…“ロマン”を無視する税務の仕組み
コレクター市場では、限定台数、ブランドの歴史、モデルに付随する物語性といった要素が往々にして価格を形成する。しかし税法は、将来の値上がり期待ではなく、資産の物理的属性や使用形態といった客観的基準に基づいて分類を行う。
その結果、市場では芸術品のように扱われる車両であっても、税務上は機械設備として整理されることがある。ここに、市場の評価軸と税法上の評価軸との間のズレがある。
もっとも、本件判決はあくまで個別事案に対する判断であり、すべてのクラシックカーや限定車が当然に同じ結論となるわけではない。
ただし、機械構造を有する自動車については、その物理的な減耗可能性が重要な判断要素となり得る点を示した点に、本判決の意義があると税法の専門家は指摘する。
仮に法人がF50を1億円で取得し、事業用資産として減価償却を行っていた場合、将来2億円で売却したとすると、税務上の帳簿価額は「取得価額から減価償却累計額を控除した金額」となる。減価償却により帳簿価額が圧縮されていれば、その分だけ売却益は大きく算定される。
結果として、値上がり益に加え、過去に費用化してきた減価償却相当額も含めて益金が認識される構造となり、想定以上の課税所得が生じる可能性がある。
なお、個人が純粋に趣味目的で保有している場合など、事業用資産に該当しないケースでは税務上の取扱いは異なる。そのため、取得主体や保有目的の整理は極めて重要である。
値上がりした場合、相続税評価額にも影響が出る可能性
また、高級車を長期保有する場合、相続税の問題も視野に入る。希少車は通常、売買実例価額や鑑定評価などを基礎に個別評価されるため、市場価格が高騰していれば、その水準が相続税評価額に反映される可能性がある。
値上がりは資産価値の増加を意味する一方で、承継時の税負担を押し上げる要因にもなり得る。投資として保有するのであれば、売却時だけでなく、承継まで含めた出口設計が求められる。
価格ではなく、構造を見よ
本件判決が示したのは、希少性や市場価格の上昇という事実よりも、資産の物理的性質が税務上の分類を左右するという原則である。
フェラーリF50は市場では“走るアート”と称される。しかし法廷で問われたのは、そのロマンではなく、機械としての構造であった。
高級車投資を検討する際に重要なのは、「いくらになるか」だけではない。誰が保有するのか、事業用とするのか、将来売却するのか、それとも承継するのか。取得から保有、処分、承継までを見据えた設計こそが、投資としての成否を分ける。
価格を見る市場の視線と、構造を見る税法の視線。その2つを峻別してこそ、高級車は初めて「資産」として扱うに値するのだ。
