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研修医時代に経験した「指定難病」と向き合う日々
筆者の場合は、医師になって最初の職場で、研修医として一人ひとりの患者を診ながら徐々に医師の覚悟が形成されていったように思う。その大きなきっかけとなったのが、初期研修の期間中にいろいろ経験した、壮絶な闘病の末に命を落とした多くの患者たちの臨終だった。
その患者は30代の女性で、SLE(全身性エリテマトーデス)という指定難病と闘っていた。SLEとはその名のとおり全身のさまざまな部位や臓器に多くの症状を引き起こす。彼女はすべての臓器が障害されてあらゆる部位から出血していたうえに、脳症から来る意識障害も起こしており、片時も予断を許さない状況下にあったのである。当時はまだICUもない頃だったので、増悪と寛解を繰り返しながら、数カ月間一般病棟で闘病していた。
そのようなすさまじい状況だったので、当然ながら筆者の帰宅もままならない。食事のときはほかの医師に彼女を見ておいてくれるよう頼んで院内でさっと食べに行き、2〜3日に1回は帰宅するが、またすぐ病院に戻るという生活を送っていた。夜は病院に泊まり込んでそのまま朝を迎え、また普通に仕事をこなした。
彼女はあるとき、ふと「先生、私もうダメかもしれないと思っています。死ぬのは覚悟しています」と漏らした。DIC(播種性血管内凝固症候群)から敗血症、脳症を起こしていて容態は悪化する一方であったし、彼女も医療に限界があることを薄々感じていたに違いない。彼女の夫も、特に多く言葉を交わすわけでもなかったが、もういっそ死なせてあげたほうがよいのではないかと思っているようなフシもあった。
しかし、彼女にはまだ小学校に上がる前の年齢のお子さんもいる。母親がこれから一緒にいてあげなければならない時期だからこそ、彼女の諦めにも似た一言を耳にして、なんとか生還させなければならないという思いが一層強くなった。それには、朝から晩まで彼女の容態を観察し、SLEは何が原因でどのように発症し、どういう治療をすべきなのかを勉強しなければならなかった。
当時は研修医だったので病院に自分専用の机はなかったものの、ナースステーションの一角にある机と椅子を借りて、今でいう、勤務時間外にはSLEに関する医学書や論文を読みあさった。外国の教科書も読んだ。先輩や上司には自分で調べて考えたことについてディスカッションし、評価してもらった。夜間は仮眠をとりながら勉強に励み、容態が急変したら飛んで行くという生活をしばらく送っていた。
そのため、当時は病棟に住み込んで働いていたも同然だ。研修医が「レジデント」と呼ばれるゆえんである。しかし、いまや家に帰って寝てくださいになってしまっている。しかも、法律である。
