「自分たちの人生を生きてみたかった」65歳夫婦の決断
都内近郊に暮らす村井俊明さん(65歳/仮名)と妻の美佐子さん(64歳/仮名)。二人とも定年を迎えたばかりのある日、俊明さんの母の逝去により、相続財産として約1,000万円が夫婦のもとに入ってきました。
「母は本当に倹約家でした。旅行にも外食にもほとんどお金を使わず、コツコツ貯めていたようです」
そう語る俊明さん。母の遺志を汲み、老後の生活費にあてようとも考えたそうですが、「このお金がある今だからこそできることを」と夫婦で話し合い、二人は“地中海クルーズ旅行”を決断します。
「いつか行きたいと思っていた場所。いつか、いつかと言っていたら、一生行けない気がして…」
ビジネスクラスの航空券に加え、約1ヵ月間の航海と寄港地観光が含まれるプラン。二人分で約600万円を費やし、残りの400万円は予備費として確保して出発しました。
地中海の歴史的都市をめぐり、客室では毎日海を眺めながらの朝食。寄港地でのオプショナルツアーや船内のコンサートも存分に楽しんだと言います。
「まさに“人生のご褒美”でした。本当に、夢のような時間でしたよ」
そう振り返る美佐子さんですが、帰国後には意外な現実も待っていました。
「旅行中に、住んでいたマンションのエレベーターが故障して…。管理組合から『積立金とは別に、数十万円の修繕費負担が必要』と通知が来ていてびっくりしました」
また、俊明さんの持病が悪化し、毎月の医療費が1万円を超えるようになりました。高齢期の支出は「食費や住居費」といった基本的な生活費だけではありません。医療費、介護費、家の修繕費など、想定外の出費が重なることで、家計のバランスが大きく崩れるケースもあります。
また、総務省『家計調査(2024年)』によれば、無職の高齢夫婦世帯の平均月間支出は25.6万円、可処分所得は22.2万円で、毎月約3.4万円の赤字が発生しているという現実もあります。
「旅行に使ったのが600万円、手元に残ったのが400万円。いま思えば、もう少し手堅くしておくべきだったかもしれません」
俊明さんはそう語りますが、「後悔はしていない」とも言います。
