(※写真はイメージです/PIXTA)

「生命の不平等」という言葉があるように、先進国と発展途上国の医療レベルには差が存在します。そのため、医師としてアジア・アフリカへの医療支援を行うことは、現地でしか得られない価値があり、かけがえのない経験ともいえるでしょう。一方的に知識を与える営みではなく、バックグラウンドが異なる現地の住民たちと共に学ぶ機会は、日本ではできない貴重な体験です。本記事は、小林修三氏の著書『医師として』(幻冬舎メディアコンサルティング)より、医師が海外にわたり現地で学びを得ることの利点を紹介します。

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文化も慣習も価値観も異なる相手とともに考える教育とは

アジア・アフリカ諸国の途上国を回って医療支援をしていると、日本人を相手にするのとはまったく異なる難しさがあることに気づく。当然ながら、どの国も文化や慣習、価値観がまるで異なるからだ。例えば、日本人の場合は期限を決めて「やれ」と言われれば、その期限を遵守しようとする人が多い。一方、海外の場合は期限を決めても重い腰が上がらないので、なかなか準備が進まない。

実際に、タンザニアの腎移植支援では、手術に使う用具や消耗品の準備、免疫学的検査調査の期限を再三伝えていたにもかかわらず、現地スタッフがこちらの思うように動いてくれず、業を煮やして思わず声を荒らげる場面もあった。かつてある有名な医師にこの支援のことを話した。「どうせ続けられないよ」と鼻で笑われた。「くそっ、いつか見ていろ」と思った悔しさは忘れられない。

読者のなかには、そのように困難を極めたタンザニアの腎移植支援で、プロジェクトを前進させるためにどのように現地のスタッフとコミュニケーションをとっていたかを知りたい人も多いと思う。それは至ってシンプルで、常に相手に語りかけ、「あなたのことを思っている」とのメッセージを伝え続けることだ。パッション・ミッション・ラブだ。

「あなたは、あなたの国を良くしたいでしょう? あなたは医療者なんだから、自分自身や家族、友人とともに生きて、あなたの国を医療の力で良くしていきたいという思いを持っているでしょう? あなたならそれが絶対できるんだよ」と始終声をかけ続けることが大事なのだ。彼らに自信と誇りを持ってもらうのだ。我慢だ。愛である。

筆者が当時、常に彼らに言っていたのが「You can do it!(あなたならできるよ!)」「One by one(一歩ずつね)」という言葉だ。「You can do it!」「One by one」はずっと言い続けていたので、タンザニアに行くと現地のスタッフが「One by one, Shuzo」と声をかけてくるまでになった。

丁寧に教えるには相手のレベルに合わせて指導する必要があるが、タンザニアの医療チームに日本人の医療チームと同じようにできるようになれと言っても、すぐには難しい。稚拙なレベルのミスやトラブルを引き起こすこともある。だから5S運動から教えた。整理整頓である。

腎移植の手術前、ボタン一つで高くしたり低くしたりできるはずの手術台が動かないというトラブルも起こった。スタッフ全員で焦って原因を調べた結果、なんのことはない、単なる電源の入れ忘れだったということもあった。途上国では、そんなレベルのミスも普通に起こり得るのだ。

そういうこともあり、「すぐにできなくても構わない、一歩ずつ進めばいいのだ」とのメッセージを粘り強く伝え続け、徐々に自信をつけさせていった。その結果が、腎移植が成功して手術着のままみんなで「We did it!」と叫んで撮った写真なのだ。筆者はこの写真に「You did it!(やったじゃないか!)」と書き込んだ。
 

[写真]タンザニアで腎移植が成功した際の「We did it」の一コマ


タンザニアでの苦労から分かったことは、「教育は無力ではない」ということだ。これらの一連の経験を通して、教育は決して無力ではないのだと実感した。教育の効果を上げるためには、やはり熱意を持って教えることが重要なのだと思う。医師として「この国の医療を良くできたら、この国の人々の命が助かるし、生きていきやすくなるはずだ」という強い使命感を持って教えていれば、同じ医療者である相手もその熱意に応えてくれるのである。

 

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※本連載は、小林修三氏の著書『医師として』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

医師として

医師として

小林 修三

幻冬舎メディアコンサルティング

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