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志もなく始まった医師への道
医師という職業には、強い使命感を持ち、「一人でも多くの人の命を救いたい」と願う高邁(こうまい)な精神の持ち主が就くものだというイメージがある。実際、筆者が現在病院長を務める医療法人・徳洲会を創立した徳田虎雄氏(現・名誉理事長)は、その象徴のような人物だった。
徳田虎雄氏は、「生命だけは平等だ」という理念を掲げ、「いつでも、どこでも、誰でもが最善の医療を受けられる社会」の実現を目指して、全国84病院を含む400カ所以上に病院や福祉施設を展開した。その活動は、医療・介護の提供だけでなく、災害医療支援や発展途上国への医療支援、さらには研究支援にまで及んでいる。
そんな彼が医師を志した背景には、幼い頃の深い悲しみがある。鹿児島県の離島・徳之島で生まれ育った彼は、小学生のとき、3歳だった弟が病に倒れた。必死に島内の診療所を回って診てもらえるよう頼み込んだが、どの医師からも断られ弟は命を落とした。
もう誰にも、こんな思いをさせたくない――彼はそう誓い、苦学の末に大阪大学医学部に進学。やがて日本を代表する規模の医療法人を立ち上げるに至った。現在は従業員4万5000人が働く巨大医療グループとなっている。この規模は、医療グループのなかでも済生会(2025年6月時点で83病院)以上、厚生連・日赤に次ぐ規模だ。いうまでもなく民間ではトップである。入院患者は一日に1万8000人。外来には3万人が来院している。
そんな徳洲会の旗艦病院である湘南鎌倉総合病院の院長を務める筆者だが、実のところ、医師を志した理由は徳田虎雄氏とはまったく対照的だった。使命感に突き動かされたわけでもなければ、高邁な理想があったわけでもない。
筆者は1955年に大阪市西区四ツ橋で生まれた。父は大手の商社を中途退職後に起業。朝鮮戦争の特需により成功を収めた人物だった。一方、長唄の師匠だった母は料理旅館を経営し、その館内ではいつも三味線の音が響いていた。いわゆる“裕福な家庭の坊ちゃん”として育った筆者は、幼い頃から生活に不自由することはなかった。
筆者の両親はこんな環境では良くないと思ったのか、幼稚園に上がる頃、同学年の従兄弟がいる大阪府豊中市の親戚の家庭に5年間、筆者を預けている。筆者はここで思い切りわんぱく坊主になった。小学生の頃は野球少年だった。残念ながらレギュラーにはなれなかったが、リトルリーグのチームに入り、クラス対抗でも活躍した。宿題はきちんとしたが、テレビ放送が始まった頃でテレビを見ながらの“ながら勉強”だったように思う。
医師という職業を初めて意識したのは、中学生の頃。両親が話していた言葉がきっかけだった。
「普通は金を受け取るほうが『ありがとうございます』って言うのに、お医者さんには払うほうが『ありがとうございます』って言っている」
自宅での商売人らしい会話だ。そのやり取りを偶然耳にし、「医師というのは、それほどまでに人々から感謝される仕事なのか」と漠然と思ったことを覚えている。また、筆者は幼い頃から小児ぜんそくを患っていた。物心つく前から何度も医師に診てもらった経験があり、自然と医療の世界に関心を抱くようになっていったのだ。
