黄川田内閣府特命担当大臣「地域の波及効果の高い取り組み」
2026年1月16日、令和7年度「企業版ふるさと納税に係る大臣表彰式」が東京都内で開催された。内閣府が2018年度から地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)を活用した優良事例を毎年表彰してきたもので、式典には内閣府の黄川田 仁志特命担当大臣(地方創生)が登壇した。
そもそも地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)は、国が認定した地方創生プロジェクトに企業が寄附を行うことで、法人関係税の負担が最大約9割軽減される制度。個人版ふるさと納税とは異なり返礼品はなく、地域貢献を目的とした制度として、企業が経済的な見返りを受けることは禁止されている。
具体的には、寄附を条件に自治体と直接的な利益を伴う契約を結んだり、補助金や優遇措置を受けたりすることは認められていない。制度は2016年4月に創設され、現在は2027年度末までの延長が決定している。
近年の企業版ふるさと納税では、単なる資金提供にとどまらず、人材派遣、技術提供、実証実験など、企業の事業活動と直結する形での活用が広がっている。自治体にとっては地域課題解決の推進力となり、企業にとっては事業検証や人材育成、ブランド価値向上につながるケースも増えてきた。
表彰式では、受賞した4市町と3社の企業について、「それぞれの民間の知恵や資金を活用したうえで、地域の波及効果の高い施策」と紹介し、企業版ふるさと納税が、官民連携による実践的な地方創生の手段として定着しつつあることを強調した。
企業版ふるさと納税…企業にとっての「3つのビジネスメリット」
受賞事例を整理すると、企業にとっての活用メリットは大きく三つの視点に分けられる。
1.実証フィールドとしての活用
一つ目は、地域を新たな技術や事業の実証フィールドとして活用するケースだ。
伊豆市では、新中学校の開校を契機に慶應義塾大学SFC研究所と連携し、「XR防災教育」を中学校で実施した。大学生と中学生による双方向型学習や人材交流を創出した点が評価された。豊田市では、高齢者の移動課題に対し、超小型電気自動車「コムス」を活用した移動支援事業を展開し、地域住民の生活利便性向上につなげた。
企業部門では、ジー・オー・ピー株式会社が、防災や農業分野における実証的な活動を通じて自治体との連携を継続し、寄附を起点としたパートナーシップを構築している点が評価された。
2.企業価値向上と脱炭素
二つ目は、環境配慮や社会課題への対応を通じて、企業価値の向上につなげる手法だ。
四日市市では、四日市公害の教訓を踏まえ、寄附金を活用した市内路線バスのEV化を推進。企業や交通事業者と連携しながら、官民共創によるカーボンニュートラルの啓発に取り組んでいる。
企業部門では、アサヒビール株式会社が「祭り・花火の支援」や「食文化の継承」をテーマに公募型支援を実施。自治体が主体的に事業構想を描く仕組みを通じ、地域の独自性を生かしたプロジェクトを後押ししてきた。
3.事業継続性の確保
三つ目は、人材育成や地域産業の維持を通じて、事業の継続性を支える視点だ。
日南町では、森林資源を活かした保全活動に寄附企業の社員が研修として参加する仕組みを構築し、関係人口の創出と林業のPRにつなげている。
寿精版印刷株式会社は、越前和紙を活用した製品を長年提供する中で、企業版ふるさと納税を通じて福井県越前市の技術継承や拠点整備を支援。自社事業と地域産業の持続性を重ねた活動が評価された。
税負担軽減は、入り口にすぎない
最大約9割の税負担軽減は、企業版ふるさと納税の大きな特徴だ。しかし、今回の事例から見えてきたのは、それだけが目的ではないという点である。
これまで、多くの企業にとって寄附は社会貢献(CSR)の枠組み、すなわち利益の還元という側面が強かった。しかし今、この制度を起点に起きているのは、企業のリソースと地域の課題を掛け合わせることで新たな価値を生み出す「事業戦略」への変質だ。
人口減少や脱炭素といった、一企業では解決困難な社会課題が山積する現代。自社の経営理念と地域のニーズが重なる「結節点」を見出し、官民が対等なパートナーとして相乗効果を生む事業を構築できるかどうかが、次世代の競争力を左右するはずだ。
いかなるイノベーションと企業価値の向上を描くのか。令和7年度の表彰事例が示した官民共創の熱量は、次に一歩を踏み出すべきは貴社であることを示唆している。
受賞企業が描く「企業版ふるさと納税」のカタチ
表彰式後、受賞企業の担当者から、企業版ふるさと納税の活用に至った背景や、実際に取り組む中で得られた気づきについて話を聞いた。
|1億円の公募型支援。自治体の「本気」と共鳴する/アサヒビール株式会社
「私たちが重視しているのは、サステナビリティの重要課題の一つである『コミュニティ』です。人と人とのつながりをどう生み出し、地域が主体的に動き出すきっかけをつくれるか。その視点から、特定の自治体に限定せず、全国からアイデアを募る公募型が適していると考えました。
テーマとして掲げたのは『祭り・花火の支援』と『食文化の継承』です。あえて細かい条件は設けず、自治体の皆さんに事業構想を描いてもらいました。そうすることで、地域ごとの個性や本気度が見えてくると考えたからです。その結果、第一弾・第二弾を合わせて延べ147自治体から応募があり、被災地を含む15自治体に総額1億円の寄附を行いました。
印象に残っているのは、自治体側が非常に主体的だったことです。一方的な支援ではなく、対等な立場で一緒に考え、動いていく関係が築けたことは大きな手応えでした。寄附をきっかけに関係性が続き、グループ会社の別の事業につながったケースもあります。
社内決裁についても、制度の仕組みは後押しになりました。寄附額は1億円ですが、実質的な企業負担は約1割(1,000万円)です。この金額で新しい挑戦を試せるのであれば、まずはやってみようという判断になりました。
現在は『スマートドリンキング』をテーマに、飲む人も飲まない人も互いを尊重し合える社会の実現を目指し、自治体と連携した新たな施策も進めています。祭りや花火支援を通じて培った関係性やノウハウがあったからこそ、単発に終わらない中長期の連携へと発展してきました。企業版ふるさと納税は、そうした取り組みを段階的に進化させるための“起点”だったと感じています」
|伝統技術を守る投資。事業継続への「三方よし」/寿精版印刷株式会社
「越前和紙は、弊社が約40年前より扱ってきた素材で、事業の根幹を支える存在です。一方で、現地では後継者不足や製紙場の減少といった課題が以前からありました。技術が継承されなくなれば、地域だけでなく、私たちも、お客様も困る。その危機感が、企業版ふるさと納税を考える出発点でした。
私たちは、越前和紙を活用した「ちぎり和紙ラベル」の量産化に成功して以来、越前和紙の美しさと高度な技術を企業のコア技術と融合してラベルに展開し、ジャパニーズウイスキーの国際的人気とともに越前和紙の魅力を発信してきました。伝統産業支援や和紙ラベルによる後継者支援は、越前市の『販路拡大、後継育成、手漉き技術の向上の継承を支援しブランド力と交流人口を増やす事業』と明確に合致する。今回、寄付を検討するきっかけの一つです。『世の中に役立つ会社になる』という経営理念は社内で共有されていますし、越前和紙の技術が継承されることは、社会貢献であると同時に事業面でも意味があります。長年のご縁と共創実績を踏まえ、支援を決めました。
文化財が守られれば、地域の歴史や技術が次世代に引き継がれ、観光客が訪れ、地域が潤っていく。自治体や地域の方々、来訪者、そして越前和紙を使い続ける私たち企業にとっても価値が循環します。企業版ふるさと納税は、地域資源と自社事業の持続性を同時に支えるための仕組みだと思っています」