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大きな決断
翌1989年、昭和天皇が亡くなり、元号が昭和から平成に変わったこの年に、私は人生最大の転換期を迎えました。
始まりは、母からの「おりいって話がある」という連絡です。「なんの話やろう」と思いながら母に会いに行きました。
「弘一、私も高齢やし、お姉ちゃん二人もええ会社に入れてあげたんやけど、そこでなんや、ええ旦那を見つけて、申し分ない人と結婚したし、あとやってくれ」
「あとやってくれって、お母ちゃん、僕、お茶屋なんて嫌やで」
即座に私は答えました。私は自分が家を継ぐなんて、それまでまったく考えたこともありませんでした。女性が旦那衆をもてなすお茶屋という商売を男の私が継ぐ? ありえない。そう思いました。ワコールではほとんど出世らしい出世はしていませんでしたが、自分なりに新規事業部でバリバリ仕事をしていた頃でした。3年前に結婚して、一昨年息子が生まれたばかりです。
「僕は今、ワコールという会社でバリバリやってるのに、そんなん嫌や」
そんな問答が続いたように思います。母の話を聞きながら、私はふと、ここ何年か母のお茶屋はほとんど商売をしていないことに気づきました。また、会社員の楽しみの一つである年2回のボーナスを、私は母の店にかかる莫大な固定資産税に充てていたことを思い出したのです。
サラリーマンの最大の楽しみは、定年退職金だと思われていた時代でした。今はそんな時代じゃないかもしれませんが、この頃のサラリーマンはみんなそう思っていましたし、私も余生は定年退職金をもらってゆっくり過ごそうと思っていたのです。
このまま私がこの家を継がなかったらどうなるのだろう。私は頭の中でシミュレーションしました。結果、このままだとボーナスは固定資産税に消え、定年退職金が、莫大な遺産相続の相続税の足しにしかならないと思いました。その時、私はこのまま気楽にサラリーマンを続けている立場にないのだなと思ったのです。
一旦、母との話を切り上げて、私は上司である部長に、このことを相談してみることにしました。
