年金9万円の父に4万円を送り続けた10年
「父は本当に困っていると思っていました」
そう語るのは、関東地方に住む会社員の謙介さん(仮名・50歳)です。
謙介さんの父・昭一さん(仮名)は地方都市の持ち家で一人暮らしをしていました。妻を亡くして10年が過ぎ、収入は年金のみ。厚生年金期間が短く、受給額は月約9万円ほどでした。固定資産税や光熱費、食費を考えれば余裕はないはずだと、謙介さんは感じていました。
「年金9万円では足りないだろうと」
そう考え、10年前から毎月4万円を父に送るようになりました。父は受け取りを拒むことはなく、礼は言うものの仕送りについて多くを語ることもありませんでした。
謙介さんは「余裕はないが何とか暮らしているのだろう」と受け止め、仕送りを続けました。それは生活費の補填というより、「困ったときの支えになれば」という思いでもあったといいます。
後になって分かったことですが、父には父なりの考えがあったと謙介さんは振り返ります。
父は生前、近所の知人にこう話していたことがありました。
「子どもの世話にはならん」
その一方で、仕送りは受け取っていました。拒めば息子の気持ちを否定することになる、という思いもあったのかもしれません。
「断るのも違うと思ったんでしょうね」
つまり父にとって仕送りは、「生活費」ではなく「いざというときの備え」として受け取るものだった可能性があります。
転機は75歳のときの入院でした。心不全で入院し、退院後しばらくして父から電話がありました。近況を話したあと、父はふいにこう言ったといいます。
「もう仕送りはいらない」
突然の言葉に、謙介さんは戸惑いました。生活が落ち着いたのか、それとも負担に感じていたのか――理由を尋ねましたが、父は「もう大丈夫だから」と繰り返すだけで詳しく語りませんでした。
「必要なくなったのなら安心なはずなのに、なぜか引っかかる感じがありました」
後から思えば、父は入院をきっかけに自分の生活や死後の整理を考え始めていた可能性があります。仕送りを受け取り続けること自体が、自分の自立観に反するものだと感じ始めていたのかもしれません。
