「年金で息子を養っています」
「正直に言うと、年金で息子を養っている状態です」
そう話すのは、神奈川県内に住む高橋さん夫妻(仮名・夫75歳、妻72歳)です。夫婦の年金収入は月およそ21万円。持ち家で住宅ローンはありませんが、生活に大きな余裕があるわけではありません。
その背景には、同居する長男(45歳)の存在がありました。
「働いていないんです」
長男は30代までは会社員として働いていましたが、職場の人間関係が原因で退職してから状況が変わりました。再就職を試みても仕事は長続きせず、やがてアルバイトも辞めてしまいます。
夫は当時を振り返り、「最初は休んで立て直せばいいと思っていました」と話します。しかしその後も長男の生活は大きく変わらず、そのまま家にいる時間が増えていったといいます。
「お金は入れてくれていませんし、食事も洗濯も、全部こちら任せです」
当初は「そのうち働くだろう」と思っていたものの、状況が改善する気配はありませんでした。
夫妻も何度か働くよう促しました。あるとき夫が「そろそろ仕事を探したらどうだ」と声をかけると、長男はしばらく黙り込んだあと、「もう無理なんだよ」とだけ答えました。その言葉を聞き、夫はそれ以上強く言えなくなったといいます。
本来なら高齢の親を支える立場になってもよいはずの子どもが、逆に親の生活に依存する形になります。夫婦の胸には「このままでいいのか」という思いが残り、不安は年を追うごとに大きくなっていきました。
このような状況は、決して高橋さんの家庭に限った問題ではありません。内閣府や厚生労働省は、80代の親と50代の子が同居する「8050問題」を社会課題として指摘しています。長期的なひきこもり状態にある人も多く、支援が届きにくいまま家庭内で問題が深刻化するケースも少なくないとされています。
