人手不足でも低迷する労働生産性
企業の人手不足感が極めて強いことは確かだが、実態として人手が不足しているかは議論の余地がある。一般的に、景気拡張期(好況期)に最終需要が拡大し、それに対応するために企業が労働力を増やそうとするが、最終需要の拡大に労働力の確保が追いつかない場合に、企業の人手不足感が高まることが多い。
この場合、最終需要の増加ペースが労働投入量の増加ペースを上回ることにより、労働生産性(最終需要/労働投入量)の上昇ペースは加速する。逆に、景気後退期(不況期)に最終需要が落ち込んだ場合、企業は労働力を削減しようとするが、雇用調整はそれほど柔軟に行うことができないため、企業の雇用過剰感が高まることが多い。
この場合、最終需要の減少ペースが労働投入量の減少ペースを上回るため、労働生産性の上昇ペースは低下する。ところが、最近は人手不足感が極めて強い状態が続いているにもかかわらず、労働生産性の上昇ペースは緩やかなものにとどまっている(図表6)。
また、労働生産性を業種別にみると、コロナ禍以降、上昇基調が明確となっているのは、宿泊・飲食サービス業、運輸・郵便業の2業種に限られ、製造業、情報通信業は低下傾向が続いている。また、労働生産性の水準がコロナ禍前(2019年平均)を上回っているのは宿泊・飲食サービス業、建設業の2業種である(図表7)。
日銀短観の雇用人員判断DIは全ての業種でマイナス(不足超過)となっているが、労働生産性からみると実態的には必ずしも人手不足とは言えない業種も多い。人口減少、少子高齢化という人口動態面からの構造的な人手不足は今後も続く公算が大きい。その一方で、足もとの人手不足は労働生産性の上昇を伴ったものとなっていないため、景気が悪化した場合には循環的に人手不足感が急速に弱まる可能性もあるだろう。


