1―存在感の増す「推し活」消費
2024年は物価高で家計の負担が増すなかで、「宿泊料」やレジャー支出は比較的堅調の一方、円安による割高感で海外旅行を含む「パック旅行費」は低迷するなど「メリハリ消費」の傾向が見られた[図表1]。消費者はコストパフォーマンスを重視し、慎重に消費対象を選ぶ傾向が強まった。
一方で近年、消費における「推し活」の存在感が急速に増すなかで、メリハリ消費やコスパ意識も影響を受けている。
推し消費はイベントへの参加、グッズ購入、飲食サービスの利用など多岐に渡るため、従来の統計では正確な規模を把握しにくい。しかし、SNSでは、価値を感じたものには他を抑えてでもお金をかけ、高額な出費もいとわないような消費者の姿も見られる。
また、推し消費は単に好きなものを購入するだけではなく、SNS上での自己表現やファン同士のコミュニティ形成につながっている。
近年、消費社会が成熟化し、安価で高品質な商品・サービスが普及している。無料のアプリやネットサービスも広がり、こだわりの少ない消費には、お金をかけずにコスパよく済ませられる環境が整っている。
このようななかで、推し消費のように「自分の楽しみにどんな価値を与えるか」「その消費を通じて理想の自分をどう表現するか」といった視点が消費行動においてますます重要な要素となっている(イミ消費やエシカル消費を含む)。
つまり、可処分所得の増減によらず、こだわりの少ない消費にはコスパが求める一方、こだわりの強い消費には積極的に支出するという「メリハリ消費」の傾向が一層強まっている。その結果、可処分所得が伸び悩んだ2024年は、消費対象をより慎重に選び抜いた1年だったといえる。
2―消費は年後半から徐々に活発化
2025年は、これまでの流れを引き継ぎつつ、新たな消費行動も広がりそうだ。昨年に続き、高い賃上げが見込まれ、今年後半には賃金の上昇率が物価上昇率を安定的に上回っていく*。
そうなれば、実質的に使えるお金が増え、「消費を控える」から「選びながら消費する」へと意識がシフトしていく可能性がある。その結果、従来のメリハリ消費において「節約」の比重は徐々に和らぎ、消費全体が活発化していくだろう[図表2]。
また、「推し活」をはじめとする「こだわり消費」の定着により、メリハリ消費やコスパ意識が消費行動の基盤として強まりつつあり、これも今後の消費回復をあと押しする要因となるだろう。
3―循環型消費、AIに任せる消費も
一方で、モノを大切にする価値観は根強く、リユースやリサイクルといった中古市場は拡大を続けている。節約志向を持ちながらも「モノの循環」を意識する生活スタイルが広がり、「この消費が社会課題の解決につながるか」を考えるエシカル消費が広がっている。
また、AIが消費行動に与える影響も大きい。SNSの広告やネットショッピング、動画・音楽配信サービスのおすすめ機能は、従来の購入・閲覧履歴に加え、個人の嗜好や行動パターン、購入タイミングなどをより高度に活用するようになっている。今年はこうしたパーソナライズの精度がさらに向上し、消費者は「選ばなくてすむ」「任せる」スタイルをより取り入れやすくなっていくだろう。
情報過多で選択に迷う時代から、AIが最適な選択を提示する時代へとシフトするなかで、消費スタイルも変化している。2025年の消費動向は、2024年の「お金を意識する」流れを踏まえながら、より自由度の高い消費へと移行していくと考えられる。
* 斎藤太郎「2024~2026年度経済見通し」、Weeklyエコノミストレター(2025/3/11)
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