築40年の木造アパートを売却したら、突然「税務署」から“お尋ね”が届いたワケ【税理士が解説】
アパート経営における相続対策の3つのポイント
1.遺言書の作成
相続においては、被相続人(Aさん)の意思が尊重されます。そのため、遺言書が作成されている場合、相続人(3人の子ども)たちは、遺言書に示された被相続人の意思にしたがった相続を受け入れざるを得ません。
以下の対策と併せて総合的に被相続人として適切と考える相続の方法を、弁護士・税理士等の専門家のサポートを受けて検討することをおすすめします。
なお、いくら被相続人の意思が尊重されるといっても、各相続人には最低限の財産を渡さなければなりません(遺留分)。これを渡さなかった場合には、相続に不満のある相続人がほかの相続人に遺留分侵害額請求をし、トラブルになってしまう場合があるので注意が必要です。このようなことがないようにするためにも専門家のアドバイスを受けることは有用です。
2.信託契約(家族信託)の利用
不動産に関し、信託契約を締結することによって、委託者(Aさん)が死亡した場合だけでなく、認知症になるなどして意思を示すことが困難になった場合にも、安定して受託者(Aさんの代わりに不動産の管理等を行う者)が不動産および家賃収入を管理し、得た利益を受益者に分配することができます。そして、信託契約で定められた地位は相続可能です。
信託契約の受託者を信頼できる専門家や相続人のひとり(たとえばAさんの長女。このような場合を「家族信託」といいます)とすれば、Aさんの事例のような問題は生じなかったかもしれません。
信託契約は、法律関係が複雑であるため、遺言書の作成以上に慎重に対応する必要があります。銀行や専門家に依頼して行うことをおすすめいたします。
3.財産のバランス(ポートフォリオ)の調整
不動産は、金銭や株式と違って、相続人のあいだでわけることが容易ではない財産です(実質的にみて、単純な共有をすることが適切でないケースが少なくないため)。そのため、不動産が相続財産に含まれていても、ほかの財産とあわせて問題なく売却できるようなバランスにしておくことが理想的です。
資産形成はいろいろな要素が絡み合ってなされるものであるため、バランスのとれた財産状況とすること(綺麗なポートフォリオを組むこと)が難しいのは間違いありません。
もっとも、ある程度の段階で分配のしやすい財産状況にしておくことができれば、相続を柔軟に行うことが可能となり、トラブルが生じにくくなりますし、。遺言書の作成等もしやすくなるでしょう。
ある程度の年齢・段階になった時点で、資産形成から資産防衛・継承への移行の意識をもって、不動産投資の方針をより堅実なものとしたり、財産の調整をしたりして、バランスをとれるとよろしいでしょう。
個々の状況に合わせた適切な相続対策を
今回は、アパートオーナーの皆様に向けて相続対策について説明を行いました。
具体的にどのような対策をするか(遺言書や信託契約の内容、ポートフォリオの組み方)は、個々の状況によってさまざまです。資産に関する継続的な相談を銀行に行う、法的な問題について専門家のサポートを受けるなどしながら、安心して相続ができるような体制を整えていただけますと幸いです。
溝口 矢氏(法律事務所Z アソシエイト・東京オフィス 弁護士)

