母親の世話にはノータッチだったくせに母親の遺産を高圧的な態度で求める弟。きょうだい間で遺産の配分について話し合いが上手くいかない場合どのように進めればよいのでしょうか。本記事では、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が事例をまじえて、できる対策について詳しく解説します。
父親の相続ができていない
先日、母親が亡くなったという美咲さん(52歳・女性)が相談に来られました。父親は3年前に他界しており、弟(50歳)と美咲さんの二人が相続人です。
父親の財産は評価が2,000万円の自宅と預金ですが、相続手続きはしないまま、今年になって母親が亡くなってしまったのです。
父親の預金は母親に移しているため、父親の名義が残っているものは自宅の不動産だけだと言います。
母親の財産は基礎控除を超えている
亡くなった母親の財産は金融資産のみですが、預金が3,000万円と証券4,000万円、合計7,000万円あるため、相続税の申告が必要です。預金や株は父親の収入から残してきたと思われますが、経緯ははっきりしないため、母親の財産として申告することが必要となります。
父親の財産が不動産だけとすれば、基礎控除の範囲内となり、相続税の申告は不要です。
話し合いができない
母親が亡くなって3ヵ月になりますが、その間、弟は美咲さんや美咲さんの夫に対して責め立てるような言葉ばかりを言うようになりました。「不動産はいらないから、預金を全部相続する」「母ちゃんの遺産は俺のモノ」と毎日のように電話をかけてきます。そして美咲さんのことは「お前」呼ばわりで姉に対する尊敬の念はありません。
母親が亡くなるまで、82歳の母親の面倒をみてきたのは美咲さんでした。日常の買い物やちょっとした手伝いはもちろん、母親が病気で入院してから足しげく病院に通って世話をしていました。
父親、母親ともに遺言書はないため、2人で話し合いをしないといけないのですが、とても話し合いにはならず、どうすればいいかと相談に来られました。
バランスが悪い
弟の希望する分け方で、不動産を美咲さんが相続することなら異論はないのですが、金融資産を弟が全部とるとすると、2対7の割合になるので、等分にはなりません。美咲さんとすれば両親の老後の世話をしてきたのは自分なので、等分でもかなり譲歩しているという気持ちです。
しかし、そうした気持ちを伝えられる雰囲気ではなく、とにかく話し合いにならないので、ほとほと疲れ果ててしまったといいます。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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