未分割のまま相続税を申告するときの問題点
遺産分割ができていない状態で相続税を申告すると、遺産分割を済ませて申告する場合に比べて税額が高くなったり、納税が困難になったりする可能性があります。未分割状態での相続税申告では、以下のようなデメリットがあるためです。
●小規模宅地等の特例が適用できない
●農地・非上場株式の納税猶予が受けられない
●物納ができない
●遺産を納税に充てることができない
配偶者の税額軽減が受けられない
相続税の配偶者の税額軽減は、相続した財産が法定相続分以下、あるいは1億6,000万円以下である配偶者には相続税がかからないという特例です。
遺産が未分割のままでは、配偶者の税額軽減を受けることができません。そのため、相続人に配偶者が含まれる場合は、遺産分割を済ませて相続税を申告するときよりも、税負担が著しく重くなる可能性があります。
ただし、遺産の一部だけが未分割の場合は、分割済みの部分については税額軽減を受けることができます。
遺産分割が済んだあとの申告手続きで配偶者の税額軽減を受けるためには、当初の申告のときに「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出する必要があります。
小規模宅地等の特例が適用できない
小規模宅地等の特例では、相続財産のうち居住や事業のために使っていた宅地の評価額を最大80%引き下げることができます。
相続財産の評価額を引き下げることで大幅な節税ができる制度ですが、この特例も遺産が未分割のままでは適用することができません。
配偶者の税額軽減と同様に、期限内の申告で「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出すれば、後日特例を適用することができます。
農地・非上場株式の納税猶予が受けられない
農地・非上場株式の納税猶予は、相続税の納税によって農業や事業の継続が困難になることを防ぐための制度です。
農地の納税猶予の特例では、農地を相続して農業を継続するとき、一定の要件のもとで農地にかかる相続税の納税が大部分猶予されます。
非上場株式の納税猶予では、非上場株式(オーナー企業の株式)を相続して事業を継続するとき、一定の要件のもとで非上場株式にかかる相続税の納税が猶予されます。
これらの制度では、遺産が未分割のままでは納税の猶予を受けることができません。また、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出してあとから猶予を受けることもできません。
物納ができない
相続税は現金で一括して納めることが原則ですが、延納をしてもなお現金で納めることが困難な場合は、一定の要件のもとで相続財産による物納が認められます。
ただし、未分割の相続財産は物納することができません。所有権が確定しておらず、物納の要件の一つである「管理処分不適格財産に該当しないもの」を満たさないからです。
どうしても物納せざるを得ない場合は、少なくとも物納する財産だけでも遺産分割を済ませておく必要があります。
遺産を納税に充てることができない
遺産が未分割のままで相続税を申告する場合は法定相続分で仮の申告をしますが、そのときに相続税を納めなければなりません。税額を軽減する特例が適用できないため、多額の納税資金が必要になります。
しかし、遺産分割ができていなければ預金を引き出すことができず、預金や不動産を担保に納税資金を借りることもできません。そのため、手持ちの資金から相続税を納税しなければなりません。
納税資金が不足する場合は、遺産分割前の預金を引き出すことができる「仮払い制度」を利用することができます。ただし、相続人ごとに引き出せる金額の割合が定められているうえ、同一金融機関からの引き出しは150万円が上限となっています。
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