国際結婚で複雑になる相続税…アメリカ人と結婚し海外在住となった日本人女性、所有する日本の不動産の相続税はどうなる?

国際結婚で複雑になる相続税…アメリカ人と結婚し海外在住となった日本人女性、所有する日本の不動産の相続税はどうなる?
(※写真はイメージです/PIXTA)

国際結婚した後、日本に所有する不動産の相続税はどうなるのでしょうか。アメリカ人の男性と結婚した日本女性が所持していた不動産が米国でどう課税されるかについてみていきます。本連載では、富裕層の国際相続の諸課題について解説します。

課税の境界線は基礎控除額1,361万ドル

以下、例4に該当する事例を紹介します。

 

米国籍でハワイ州在住のAさんは日本の不動産を所有しています。Aさんは日本国籍で日本に居住していましたが、米国人男性Bさん(生存配偶者)と結婚して、現在はハワイに住んでいます。Aさんは、Bさんとの間にひとりの子どもがいます。

 

Aさんは、結婚までに、実父から相続した不動産(土地)を日本に持っていました。この土地は、実父からAさんの姉Cさんとの2人で均等に相続したものです。Cさんは、この土地に娘Dさんと暮らしています。Aさんは、ハワイに移住する前にAさん所有の土地の相続について、公正証書を作成して、Dさんに相続する旨を決めました。

 

なお、Aさんはハワイに預金として30万ドルを所有しています。また、Aさん所有の日本の土地の相続税評価額は3,500万円です。姉のCさんは、Aさんの相続に関して米国で課税関係が生じるかを心配しています。

 

この事例の場合の適用関係を整理すると、以下のとおりです。

 

①ハワイ州のプロベイト(検認裁判所が関与する手続き)の対象となるのは、米国不動産・動産、日本所在の動産ですが、Aさんは日本に動産がありません。

 

②日本法の適用となるのは日本の不動産ですが、この事例では公正証書があることから、これに基づいて相続が行われることになります。

 

米国の連邦遺産税は、トランプ大統領による2017年の税制改革法により、2025年までの時限措置として、基礎控除額が2倍の1,000万ドルに拡大され、さらに毎年インフレ調整が行われて、2023年は1,292万ドル、2024年が1,361万ドルと増えています。Aさんの財産金額は基礎控除額以下ですので、米国連邦遺産税の課税はありません。また米国は遺産者課税ですので、Aさんの土地を相続するDさんは課税されません。

 

したがって、基礎控除額1,361万ドル以上の相続財産がある場合は、課税対象になりますので、注意が必要です。

ハワイ州の遺産税

米国50州とコロンビア特別区のうち、相続税のある州は18あります。遺産課税方式の州は12、取得課税方式の州は5、両方式の折衷方式の州が1となっています。

 

ハワイ州の2023年の控除額は549万ドル(約7億7,000万円)で税率は10~20%です。連邦遺産税と州の遺産税は控除額が異なります。しかしAさんの場合、州の遺産税は課税にはなりません。

米国における遺産課税

米国では、連邦税として遺産税、贈与税および世代飛越税が統合移転税方式(unified transfer tax system)を構成し、連邦税以外に、州税としての相続税等が課される州もあります。

 

遺産課税は以下のように行われています。

 

① 被相続人の死亡時に、その財産を時価により評価します。なお、この場合、選択とし  て、死亡した後の6月後を評価の基準日とすることもできます。

② 債務の控除、寄付金控除、配偶者控除等を差し引いて課税遺産額を算定します。

③ 1976年以後の贈与税を課された財産を課税遺産額に加算します。

④ ③の金額に統合税率(unified tax rate)を乗じて算出税額を計算します。

⑤ 1976年以後に納付した贈与税額、州税、外国相続税、統合税額控除等の税額を控除して納付税額を算定します。

 

結果として、Aさんの日本の不動産も米国における相続財産に含まれますが、財産総額が控除額を下回ることから、米国において連邦遺産税およびハワイ州遺産税のいずれも税額は発生しませんでした。

日本における相続税の課税

Dさんは日本において居住無制限納税義務者として日本の不動産に係る相続税の課税対象ではありますが、Aさんに係る基礎控除(法定相続人2名:夫Bさんと子ども)以下の金額であることから、日本で納税義務は生じません。

 

矢内一好

国際課税研究所首席研究員

 

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