夫婦で築いた資産、娘たちへ確実に渡したいが…
今回の相談者は、60代の山田さん夫妻です。2人の子どもへ財産を渡す方法について相談したいと、筆者の事務所を訪れました。
山田さん夫妻はともに東北地方の出身で、結婚後に上京。夫婦で自営業を成功させました。保有する財産は、世田谷区の自宅マンション、夫妻の共有名義となっている賃貸アパートのほか、夫婦それぞれが所有する預貯金や有価証券などを合わせると、4億円近い資産です。
「私たち夫婦には、30代の娘が2人います。長女は3年前に結婚し、先日は孫も生まれました。二女はまだ独身です。この2人の相続をどうしたらいいか…」
山田さん夫妻の場合は双方に財産があるため、いまから節税対策を考え、評価を減らすことも含めた節税案の検討が必要だといえます。筆者と提携先の税理士は、相続税も気になることから、一次相続と二次相続の相続税を比較して、分割案を検討しておく必要がある旨、アドバイスしました。
娘に持たせた資産が、婿に流れるのは阻止したい
しかし、どうも話がスムーズに進みません。
「先生、娘たちのことは本当に大切ですし、孫は目に入れても痛くないほどかわいいのです。娘2人と孫の幸せを、夫婦ともいちばんに考えています。ですが…」
山田さんのご主人が重い口を開きました。
山田さん夫婦は、長女の結婚相手に不信感をお持ちのようでした。詳しく伺うと、娘婿は5歳年下でバツイチ。ご夫婦に対する態度も、長女に対する態度に横柄さが見え隠れして、不安だとのこと。
「最初は殊勝な態度だったのですが、顔を合わせるたびに自分勝手な振る舞いが目立ち、気がかりです。それに、これまでに何度も車を買い替えるなど、金遣いも荒い。ですが、娘はなにをされてもニコニコしているだけで…」
平均寿命からみれば、女性の方が長寿ではありますが、夫婦のどちらが先立つかはわかりません。
「二女はまだ独身ですが、いずれ結婚することになるでしょう。しかし、万一娘が配偶者より先に亡くなるようなことになれば、娘に持たせた資産は婿に流れてしまいます。私たちが汗水たらして築いた財産で、他人の婿が棚ボタ式においしい思いをするのは納得できません。財産が婿に流れることなく、娘から孫に直接わたるような、よい方法はありませんか?」
山田さん夫婦は、娘たちに相続させた財産が、娘の配偶者に渡らないようにする方法を探し、対策を進めたいと考えているとのことでした。
「いま、長女に不動産を管理させ、家賃を娘2人で分けるという方法を考えていますが、どうでしょうか。1人ずつバラバラに収益不動産を持たせると、どうしても配偶者の干渉があるでしょう?」
「ほかにも、家族信託を使う方法もあると聞き、迷っています」
血族での資産承継は理想だが、現実的とはいいがたい
山田さん夫婦の希望に近づけるための選択肢は、たしかに複数あるかもしれません。
しかし、たとえば賃貸事業なら、20年、30年といった長丁場のなか、日々の管理だけでなく、修繕、建て替え、買い換え等の大きな決断も必要です。しかし、これらを共有状態のままスムーズに行うことは、果たして可能なのでしょうか? 筆者には、現実的なものとは思えません。筆者と税理士は、きょうだいで不動産を共有する難しさをお伝えました。
税理士からは、夫婦ともに遺言書を作成し、娘と孫に相続・遺贈していけば、当初の不安は軽減される旨アドバイスし、改めて2人の娘を交え、遺産分割についてよく検討してもらうことになりました。
ご相談者のなかには、血のつながった子どもや孫には財産を渡したいけれども、その配偶者には渡したくない、という方もいらっしゃいます。
親族のみで財産を承継していきたいというお気持ちはわかりますが、時代にそぐわない考えになりつつあるといえます。まずは相続人である子どもに渡し、それ以降については次世代に任せていく「割り切り」が必要なのです。
また、財産もずっと同じ状態で維持し続けられるわけではありません。維持することのみに固執すれば、多額の税金がかかるだけの「人生のお荷物」になるリスクもあります。相続人が資産を有効に活用するには、先を見越した決断や、柔軟な考え方・受け止め方が必要なのです。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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