施設に入所した母と会いたい…ある女性の切実な思い
今回の相談者は、50代のパート社員の山田さんです。10年前の父親の相続時に兄とトラブルになり、それ以降関係が悪化しているそうですが、今度は兄に、施設に入所した母親との面会を阻止され困っているため、相談に乗ってほしいということでした。
山田さんは兄と2人きょうだいの妹で、亡くなった父親は会社の経営者でした。兄は大学卒業後、数年間ほど一般企業に勤務したのち、父親の会社に入社。その後は父親と二人三脚で仕事をしていました。父親が亡くなってからは、兄が会社を継いでいます。
山田さんの嫁ぎ先は遠方だったため、父親の会社についてはノータッチでした。すべてを兄夫婦に任せてきましたが、それについては納得しており、不満はないといいます。
父の相続…会社どころか、実家不動産までひとり占めに
「父は突然亡くなったので、遺言書も準備していませんでした。ですから、本来なら、母と兄と私の3人で遺産分割協議をするはずだったのですが、そこをすべて兄が仕切って…」
会社の後継者である兄は、会社関係の土地や株を相続するだけでなく、母親が暮らす実家も相続したというのです。母親が相続したのは数千万円の現金、山田さんは100万円の現金を相続しただけでした。
「私はすでに家を出て、会社は兄が継いでいます。ですから、実家の財産のことはかまわないのです。ですが、母の家まで兄が相続するって、どうなのでしょう? もし兄が母より先に亡くなれば、兄の財産は、お嫁さんと子どものものです。そうなったら、高齢の母は住む場所を失うかもしれません。それで兄と大げんかしたのです」
「兄は〈俺が死ぬっていうのか!〉〈俺の妻をなんだと思っている!〉と激怒しましたが、〈そうじゃない、なぜお母さんの万一を考えてくれないの?〉と訴えても、まったく話がかみ合わないまま…。結局歩み寄れず、決裂してしまいました」
「ご長男に口止めされており、お母様の居場所は教えられません」
その後、たまに母親と電話で連絡を取り、1年に1度ぐらいの割合で、実家近くに出向いては、母親とだけ交流する日々を過ごしていました。
「久しぶりに母親に連絡を取ろうとしたら、電話がつながりませんでした。心配になって実家の近所に暮らすいとこに聞いたら〈えっ、知らないの? おばちゃん、お風呂場で転んで、隣町の総合病院に入院しているはずだよ〉と…。ただ、いとこも兄から〈母が家に戻ったら連絡する〉とだけいわれて、くわしくは教えてもらっていないそうなのです」
山田さんはその数日後、時間を作って郷里に向かい、いとこから聞いた病院を訪ねましたが、すでに退院しているといわれてしまいました。
その後どうしたのかと病院のスタッフに尋ねると、「ご長男に口止めされており、お母様の居場所は教えられません」と木で鼻をくくったような対応です。山田さんが「私は実の娘ですよ!」といって食い下がっていると、そこに母親と山田さんのことを知っている看護師が通りかかり、施設名を教えてくれました。
山田さんはその足で、すぐ施設へと向かいました。
ところが今度は施設の担当者から「ご長男から〈会わせてはいけない〉といわれているため、ご面会いただくことはできません」といわれてしまいました。腹を立てた山田さんは、その場で兄に電話をしたところ、「おふくろとは会わせない」の一点張りです。施設からも追い出されてしまい、山田さんはあきらめ、その場を引き返しました。
これが、2年前の出来事でした。
「母はもう高齢で、いつなにがあるかわかりません。生きているうちに、母ともう一度会いたいのです…」
兄に妨害され、母親に会えない…弁護士の見解は?
このような話になると、弁護士の対応となります。筆者はその場で提携先の弁護士法人に確認し、アドバイスを求めました。回答の主旨は、下記のようなものでした。
●実の娘が母親に会う権利があるかどうかは、母親の意思や状況にもよるが、母親が高齢で介護が必要な状態にある場合、子どもが必要な介護をするために面会交流を希望することは当然である
●あきらかに母親の意思に反していたり、母親の平穏な生活を侵害する虐待があったり、母親の権利を不当に侵害するものでない限り、子どもは母親に面会する権利がある
●つまり、妹を母親に会わせることが、母親の権利を不当に侵害するものでない限り、母親に会わせないという兄の行為は、妹の権利を侵害する行為にあたる可能性がある
現時点でできる法的手続きとは?
また、弁護士からは、現時点で可能な法的手続きについてもアドバイスがありました。
●話し合いが可能なら、まずは「親族関係調整調停」を申し立てることが考えられる
●調停での話し合いがうまくいかない場合や、そもそも調停での話し合いが難しい場合などは、妹が母親に会える権利を前提とした、兄に対して「侵害行為の妨害排除請求」、または「妨害予防請求」の裁判を申立てることが考えられる
●ただし、裁判には時間がかかるため、上記の「妨害排除請求」または「妨害予防請求訴訟」を申立てることを前提として、仮地位の仮処分を申立てることが現実的だといえる
※仮処分とは、訴訟での解決をまっていたのでは権利を保護することなどが難しい場合に暫定的に権利を認めるもので、訴訟に比べて手続が早く進み、訴訟で実現するのとほぼ同様の請求を実現できるというもの。実際に母親に会わせてもらえない子どもが申し立てて仮処分が認容されているケースもある
泣き寝入りか?プレッシャーをかけるか?
筆者はこれまでも、今回の山田さんのケースのように、親のそばにいるきょうだいが「親の面倒を見る」という名目で親を囲い込み、ほかのきょうだいに居場所を教えない、会わせない、財産の内容も共有しない、といった行動をとり、結果的に親の財産を使い込むといった実例をいくつも見ています。
そのような行動に至る理由は、多くの場合「財産の独り占め」が目的だと推察されます。山田さんも以前の状況を振り返り「経営者の父が亡くなったころから、兄が親の財産を独り占めする前提で動いていたように思います」といっていました。
まずは内容証明郵便で反応を見る
山田さんはとにかく母親が生きているうちに面会できることを願っており、時間をかけるのは避けたいと考えています。そこで、提携先の弁護士からは、下記のようなアドバイスがありました。
●まずは兄に連絡し「母親に会わせることを許可しないと、弁護士に依頼して調停する」と伝える
●その際、同時に「娘を母親に面会させないのは認められないことである」と通知し、そのときの反応によっては内容証明郵便を送付する
●それでも拒絶する場合は、いよいよ弁護士に依頼して調停へ
※兄の指示に従って、山田さんと母親の面会を拒絶する施設側にも、同様の通知を出す
母親が存命のうちに会いたいと子どもが思うのは当然のことです。筆者は山田さんと母親の面会が実現するよう、これからもサポートを続けていくことになります。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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