(※写真はイメージです/PIXTA)

ある女性は、夫の葬儀の席で、息子の嫁の聞き捨てならない発言を聞き、いままでの積み重なった怒りが頂点に。遺言書作成を決意します。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

自慢の息子、医師としてスタートした瞬間「結婚したい人がいる」

今回の相談者は70代の井上さんです。ご自身の将来の相続について相談したいと、筆者の元を訪れました。

 

井上さんは2年前に夫を亡くし、いまは自宅でひとり暮らしです。お子さんは40代の長男と、40代の長女の2人です。

 

「長男は東京の病院で医師をしています。勤務先が決まったらすぐに結婚しました。いまは都内で、妻、子ども、そして妻の母親の4人で暮らしています」

 

「長女は会社員で、30代で結婚しました。子どもを産んでも働きたいというので、自宅そばにある、私が相続した実家をリフォームして娘家族を住まわせています」

 

井上さんは地主の家系の出身で、かなりの資産をお持ちであり、現在暮らしている自宅も井上さんの名義です。ほかにも、夫から相続したものを合わせ、金融資産は5,000万円以上あります。

 

「娘も子育てがひと段落し、わたしも手伝いから解放されました。このタイミングで、息子と娘への遺産の分割について、しっかり考えておきたいのです」

 

井上さんはまだ70代前半でお元気ですが、いまから相続についてはっきりさせておきたい理由がありました。

 

「私も亡き夫も〈いずれは長男に自宅を継いでもらうことになるだろう〉と、なんとなく考えていたのです。ところが、長男は結婚してすぐ、奥さんのお母さんに取られるような格好になってしまって…」

 

井上さん夫婦は、医師になりたいという夢を持っていた長男を惜しみなくサポートしてきました。本人の努力の甲斐もあり、無事に有名私立大学の医学部に進学。留年することもなく、無事に医師としてのキャリアをスタートさせたのですが、勤務先が決定してすぐ、「結婚したい人がいる」といって、井上さん夫婦のもとに女性を連れてきました。

 

「主人も私も〈ちょっと早いのでは…〉と心配したのですが、医師はとにかく忙しいから、みんなこのタイミングで結婚する、それがいちばんいいのだといわれて…」

 

長男にぴったり寄り添う女性を複雑な思いで見ていたという井上さん夫婦ですが、結婚して数カ月後、長男が結婚生活をスタートさせた都内のマンションに、妻だけでなく、妻の母親まで同居していると聞いて仰天しました。

 

「息子に聞くと、〈あちらのお母さんは、妻をひとりきりで育てて大変だった。体も弱くて、もうムリができないから、助けてあげなければ…〉といわれ、〈はあ、そうですか〉と。お嫁さんが中学生のころ、離婚されているのですよ」

 

その後、孫が生まれても滅多に会うことができず、井上さん夫婦はずっとモヤモヤしていました。ところが、長男が30歳を過ぎたころ、すでに自宅を購入していたことが判明します。もちろん、そこには妻の母親も一緒です。

 

「2年ぶりに家に来た息子から、なにかの話の流れで家を建てたと聞いて、ビックリしたんです。〈いつ建てたの?〉〈どうして教えてくれなかったの?〉と、主人と矢継ぎ早に質問している隣で、お嫁さんはまるで話が聞こえないみたいに、孫を抱きながら無反応でスマホをいじっていて…」

 

「本当にショックでしたし、心底ガッカリしました。息子の家庭のこととはいえ、親にそんなに大事なことを黙っているなんて。息子への愛情が、引き潮みたいにスーッと引いていきましたね」

「子どもの学費と自宅の建築費用を援助してほしい」

もともと持病があった井上さんの夫は、60代の後半になって状態が悪化し、2年の介護生活を経て亡くなりました。

 

「夫の葬儀の席で、お嫁さんがずっと息子と2人、ひそひそ話しているんです。〈いくらぐらいなの?〉と聞こえたので、葬儀費用を心配してくれているのかと思ったのですが、その後〈どっちがオトクかな?〉とクスクス笑いが聞こえ、息子が慌てた様子でたしなめていました。ああ、私の家と娘の家の価値を比べているのか、と。将来どっちの家をもらうのが得か、お経をあげているそばで話をしていたのですよ」

 

四十九日が過ぎたころ、長男の妻から直接連絡がありました。話を聞くと、私立の学校に通う孫の学費を援助してほしいという依頼でした。

 

「夫の介護は、私と娘だけで行い、お嫁さんはお見舞いにも来ませんでした。長男は仕事が仕事ですから仕方ないかもしれませんが、それでも、専業主婦のお嫁さんなら、自分の親に子どもを預けて、1回ぐらい顔を見に来てもいいんじゃないですか?」

 

「〈親の金を当てにせず、自分でどうにかしたらどうか〉と突き放したら、泣かれてしまいました」

 

井上さんの夫の遺産は、相続税がかからない程度の現預金のみでした。そのため、「自身の老後のために取っておきたい」という理由で、子どもたちには数百万円を渡すにとどめました。

長男には現金の一部を、残りはすべて長女へ…

井上さんは言葉を続けます。

 

「私が亡くなる前に〈私が死んだら、残りの財産をすべて長女に相続させる〉と遺言書を残したいのです」

 

一方で、相続時に長男が多くの財産を要求し、長女と揉めるのではないかという懸念がありました。

 

筆者は井上さんの意向を汲み、提携先の税理士とともに、井上さんへ公正証書遺言の作成を提案しました。

 

遺言書の内容は、長男には現金の一部を相続させ、長女にはそれ以外のすべてとなる、残りの現預金、井上さんが暮らしている自宅不動産、そして現在長女が暮らしている家を相続させる、というものです。遺言執行者も長女とします。

 

井上さんはその案に賛成し、速やかに手続きへと進むことになりました。

 

長男と長女に相続させる内容を遺言書に明記しておけば安心ですし、井上さんの自宅や長女家族が暮らす家を長男に売却されてしまう心配もなくなります。また、付言事項として、長男には医師になるための教育資金として多額の援助をしている旨を明記し、長男には遺言の内容で納得するよう書き添えることになりました。

 

「長男に相続させようと考えているお金は、私が夫から相続したものの一部です。私は自分がもっと高齢になったら、自分の年金と、夫と親から相続した預貯金で、高齢者住宅に入所する予定です。遺言書を残すことで子どもたちが争う余地がなくなるのなら、安心です」

 

もし遺言がなければ、法定割合による分割が基準となります。しかし、遺言があれば、法定割合の半分の遺留分ですむため、万一、遺留分侵害額請求をされても、負担は軽くてすむのです。

 

放置するとトラブルになることが容易に想像できるのであれば、速やかに対策を考え、遺言書を残すことが重要です。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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