高齢両親と同居・世話をしてきた、子のない三女夫婦
今回の相談者は、50代会社員の加藤さんです。父親が亡くなり、相続のことできょうだいとトラブルになったということで、筆者のもとに相談に見えました。
加藤さんは3人姉妹の末っ子で、結婚後も実家で両親と同居してきました。両親の面倒を見ると思われていた長女は、結婚と同時に実家を離れ、子どもが生まれてからは夫の両親と暮らしており、実の両親の元に戻ることはなさそうです。二女は長女よりさらに遠方に嫁いでいます。
そのような状況から、加藤さんの両親は三女の加藤さん夫婦を頼りにしており、加藤さん夫婦も両親の面倒を見てきました。
加藤さん夫婦には子どもがいませんが、両親との関係は良好です。両親も滅多に顔を見せない。長女家族・二女家族より、加藤さん夫婦を信頼しているといいます。
「自宅と預金は三女に」音声データに残した父の意思
「3カ月前、父親が体調を崩してしまい、1カ月の入院生活ののちに亡くなりました。入院中の病室で、同居する私に自宅と預金を渡すといってくれたので、父親に頼んで録音させてもらい、音声データを保管したのです」
その場には、母親と加藤さんの夫も同席していました。
加藤さんの父親の財産は、自宅の持分3分の1で、3分の2は母親が贈与を受けています。3分の1の評価は1,000万円で、それ以外の資産は、預貯金が約1,500万円、有価証券が約500万円、生命保険が200万円です。
なお、長女は結婚の際に500万円、二女は自宅購入の際に1,500万円の贈与を受けています。
「長年辛抱を強いた夫に、申し訳が立ちません…」
葬儀のあと、加藤さんは父親のメッセージを2人の姉に聞いてもらいました。しかし、2人は納得しません。
長女は自分の夫の家族と同居していることから、母親と同居できませんが、同居の加藤さん夫婦に子どもがないことから、実家は自分の子どもに継がせたいといって聞きません。そのため、父親の持ち分である3分の1は、自分が相続すると主張します。二女は、自分は相続放棄するといいながら、長女の主張を全面的に支持しています。
「2人の姉は、母と同居しないのに、私が実家を相続することにひどい拒否反応を示すのです。私たち夫婦は子どもがいないので、私の名義にすると、いずれ夫のものになってしまい、自分たちの権利がなくなるというのです」
加藤さんとしては、いずれは実家を全部自分のものとし、老朽化した家を夫と一緒に建て直したいと考えています。
もし現状の土地の名義の状態で、夫より先に加藤さんが亡くなったら、加藤さんの姉2人は、加藤さんの夫を住まわせてはくれないでしょう。そうなると、高齢となった加藤さんの夫は、長年住み慣れた家から出て行かなければなりません。
「長年辛抱を強いた夫に、申し訳が立ちません…」
加藤さんは、そんなことになっては、文句もいわずに長年同居し、両親に尽くしてくれた夫に申し訳ないと、胸を痛めています。
両親がいる間は実家だが…「その先」は割り切りも必要に
今回の場合、長女と二女は金銭の贈与を受けています。その点からも、父親の意思をくみ取り、実家を三女の家とすることに理解をしてもらうことが必要です。
両親と同居もせず、日ごろの生活でも貢献していないのに、権利だけを主張するのは虫がよすぎる話ではないでしょうか。母親が亡くなったあとは加藤さんの財産として、加藤さんが自由に活用できるよう、割り切ってもらわなければなりません。
とはいえ今回は、亡くなった父親と意見を同じくする母親から、2人の姉を説得してもらうしか方法がなさそうです。筆者と提携先の弁護士がそのように提案すると、加藤さんは、
「母親は理解してくれているので、まずは説得してもらうよう頼んでみます」
といってお帰りになりました。
実家を血縁者のなかで承継していくのは、資産承継としては理想かもしれませんが、現代の日本において個人個人の事情を考えれば、現実的ではありません。
両親が暮らす家は実家かもしれませんが、両親が亡くなって相続が発生すれば、相続した人の財産です。両親亡きあとは、承継した人が自由に活用できるよう、相続人間で合意を得ておくことが必要です。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
注目のセミナー情報
【減価償却】11月20日(水)開催
<今年の節税対策にも!>
経営者なら知っておきたい
今が旬の「暗号資産のマイニング」活用術
【国内不動産】11月20日(水)開催
高所得ビジネスマンのための「本気の節税スキーム」
百戦錬磨のプロが教える
実情に合わせたフレキシブルな節税術
【国内不動産】11月21日(木)開催
金利上昇局面に対応!銀行からフルローンを引き出す
「最新不動産投資戦略」
利回り7%超!「新築アパート投資」セミナー
~キャッシュフローを最大化させるためのポイントも徹底解説
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】