前回は、日本は本当に「経済成長」しているのか、その実態を説明しました。今回は、「デフレ」でメリットがあるのは誰なのか、この点を探っていきましょう。

経済的な余裕できても、生活の質が上がらない…

前回の続きです。

 

では、実質的にはわずかであっても経済成長しているのだから、それでいいじゃないかという話になるでしょうか。筆者はそうは思いません。

 

なぜならば、名目GDPが上がらないということは、どんなに実質的にGDPが増えているといっても、名目上の収入が増えないからです。具体的に言えば、給料は上がらないしボーナスも増えませんし、銀行預金の金利もゼロに近いままで、お金が増えていかないのです。

 

確かに、物価が下がれば「実質的」な購買力は増えたことになります。しかし、悲しいもので、人間とは「見かけ」に大きく影響されるものです。「実質的」には豊かになっているといわれても、売り上げや給料が下がれば悲観的になります。節約しなければと感じて、財布の紐を固くして、さらにGDPを押し下げてしまいます。

 

「景気」の「気」とは、「気分」の「気」であり、「空気」の「気」でもあります。どんなに実質GDPが増えても、現実に、私たちの収入が増えたという「見かけ」も、豊かになったという「実感」もないのであれば、それは、経済的な余裕ができたことにも、生活の質が上がったことにもならないのです。

 

さらに言えば、実質GDPで見ても、日本は本来であればこれくらいは成長できるだろうと思われている潜在成長率を下回る、わずかな経済成長しか達成していません。

 

移民が多いために労働力が増大しているアメリカほどの成長はできないとしても、生産設備や就業人口から考えれば、日本の成長率はもっと高くてもいいはずなのです。それなのに、実際には潜在GDPほどの成長すらできず、いわゆるGDPギャップが発生しています。

物価が下がると同時に給料も下がる「デフレ」

その理由として考えられるのが、やはりデフレによって名目GDPが伸びないことによる経済の沈滞です。

 

先ほど述べたように、経済とは、あまり論理的とはいえない「気分」によって大きく動くものです。

 

かつての高度成長期の日本のように、物の値段が1・2倍になるようなインフレであっても、その間に給料が1.5倍になれば、みんながいい気分になってお金を使って、GDPを押し上げます。物価が上がれば必然的に名目GDPも上がりますし、そうなればお祭り騒ぎでさらにお金が使われます。これが好景気の正体です。

 

逆に、現在のように物価が1割下がっても、その間に給料がまったく増えていなければ、みんなが節約してお金を使わなくなります。モノが売れなくなるとさらに価格が下がって、企業の利益も名目GDPも下がります。

 

企業の利益が下がれば、そこで働いている人の給料が下がったり、退職に追い込まれる人が出てきたり、悲観的なニュースばかりが続きます。そうなると人々はさらに将来のためにお金を貯めこむようになるので、もっとモノが売れなくなります。これが不景気の正体であり、デフレの引き起こす悪循環です。

 

もっと言えば、デフレとは物価が下がり、お金の価値が上がっていくことです。同じ1万円で買えるものの価値や量が増えていくのですから、すでにお金をたくさん持っている人が最も得をします。つまり、預金で生活している高齢者と富裕層が最もデフレのメリットを享受しているわけです。

 

働いている現役世代や低所得者は給料が上がらなかったり、リストラが増えたりするデフレの弊害をまともに受けているのですが、見かけ上の物価の下落を歓迎するばかりで、なかなかそのことに気がつきません。

 

また、ローンを組んで土地や家を買った人々は、購入後にどんどん価格(資産価値)が下がっていくために悔しい思いをしています。それを見て買い控えが起きるために、ますます消費が増えなくなり、経済が冷え込んでいきます。

 

逆に、インフレになると物価(モノの価値)が上がって、お金の価値が下がります。同じ1万円で買えるモノの量が少なくなるからです。現金や預金を大量に持っている富裕層は、その価値が下がってしまうので、大慌てで不動産や株式などの資産の購入に走ります。

 

一方、ローンを組んで家や車を買った人々は、購入後に価格が上がっていくのを見て、早く買えたことに胸をなでおろします。多少無理をしてでも、早めに買っておいてよかったと幸せな気分になります。

 

何よりも、インフレが続けば給料も上がるので、働いている人は皆喜びます。さらに、インフレではお金の価値が下がるので、実質的な借金が減っていきます。逆に、他人にお金を貸している富裕層は、貸したお金の価値が下がるので、実質的には損をすることになります。

 

デフレでメリットを受けるのは富裕層ですが、インフレでメリットを受けるのは、ローンを組んだり、給料をもらったりする現役世代なのです。

 

デフレがいいなどという人は、目先の利益しか見えていない人か、あるいはインフレで給料が上がることを信じられない人か、いずれにしても視野が狭くて長期的に物事を考えられない人のように思えてしまいます。

 

実際のところ、デフレ(物価下落)になると賃金も下がりますから、生活が苦しくなるのはデフレのほうなのです。逆にインフレになると、商品やサービスの売り値が高くなるので、企業の利益が拡大し、払える人件費も増えるので、賃金も上昇します。

本連載は、2014年7月29日刊行の書籍『インフレ時代の投資入門』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

インフレ時代の投資入門

インフレ時代の投資入門

杉浦 和也・前野 達志

幻冬舎メディアコンサルティング

仮に今、あなたに1000万円の預金があるとしましょう。安倍内閣が掲げるインフレ目標2%が今後毎年達成された場合、その預金の価値は毎年2%、つまり20万円ずつ目減りしていくことになります。預金の金利はもちろんつきますが、現…

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