相続の準備はまず、相続人と財産の確認から始まります。財産評価をした際、金融資産が多い場合には、賃貸不動産を購入したり、現金を贈与したりするなど、有効な節税対策はいくつかありますが、なかでも家族旅行をするといった消費活動も、相続対策を進めるうえで有意義な時間につながることがあります。本記事では、70代を迎えた正さんご夫婦の事例をもとに、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、円満な相続対策の進め方について解説します。
夫婦ともに70代を迎えて、いよいよ相続の準備を
まだ現役コンサルタントとしてマイペースに仕事をされている正さん(77歳男性)。妻もほどなく70歳になり、夫婦で相続の年代になるということから、その用意をしておきたいと、今回相談に来られました。
正さんの相続人は妻のほかに、3人の息子がいます。長男家族は、正さん夫婦と同居をしており、また、次男、三男は、近くにマンションを買って生活してはいるものの、2人とも家が近いこともあり、なにかと集まる家族だといいます。
これから相続に向けて準備すべきことを提案してもらいたいとのことでしたので、課題を整理し、課題解決のための「相続プラン」を作りました。
相続の準備はまず、相続人と財産の確認から
まず相続に向けた準備の入り口は、相続人の確認です。相続人は妻と3人の息子たちですので、基礎控除は5,400万円です。
続いて財産の確認、評価に入ります。正さんの自宅敷地は150坪あり、うち50坪が自宅、隣接する土地100坪には、以前正さんの父親が経営していた工場があったそうです。祖父の代から父親と叔父たちで板金加工をされていたらしく、親族経営は安定していましたが、長男である正さんが家業を継ぐことはなく、また叔父の子どもも嫁いで離れてしまったことから、工場は父の代で廃業し、現在はアパートに建て替えられていました。
こうしてみると正さんの財産は、そのほとんどが父親から相続した財産で、自宅は4,000万円、敷地内にあるアパートは7,000万円という評価に。預金は5,000万円、株は1億5,000万円。相続税を計算すると、計5,580万円となりました。
妻にも財産がある場合は
配偶者には特例があり、財産の半分、あるいは1億6,000万円までは相続税の納税はなして相続できます。これを一次相続といいますが、次に、その配偶者が亡くなった際の二次相続と呼ばれる相続においては、一次相続の財産と配偶者独自の財産を合わせた財産に対して相続税が課されます。さらに二次相続では相続人が1人減っていますので、基礎控除も少なくなり、一次相続より相続税が増えることがあります。
よって配偶者独自の財産が多い場合は、一次相続での特例を利用せずに子どもたちが相続して納税したほうがいいケースもありますので、見極めが必要です。
正さんの妻は、自分が働いて貯めてきた預金と自分の親から相続した預金や株で8,000万円の金融資産があるといいます。こうした場合、一次相続で妻が財産の半分を相続すると二次相続も含めた相続税の合計が多くなるため、妻が相続しないほうが相続税は少なくて済むのです。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
一般社団法人相続実務協会 代表理事
一般社団法人首都圏不動産共創協会 理事
一般社団法人不動産女性塾 理事
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書86冊累計81万部、TV・ラジオ出演358回、新聞・雑誌掲載1092回、セミナー登壇677回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2025年版 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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