前回は、日本がデフレから抜け出す方法について考察しました。今回は、政府と日銀が「デフレ」を解消できない理由を考えてみます。

通貨供給量を増やしてデフレを回避する国は多いが…

本当に通貨供給量(マネーサプライ)を増やすことによって、インフレを起こすことができるのでしょうか。そして、緩やかなインフレによって景気を拡大することができるのでしょうか。

 

できる、というのが現在の世界の経済学の主流です。実際に多くの国がインフレ目標を設定し、マネーサプライを増加させることでデフレを回避しています。

 

このように、緩やかなインフレによって景気を回復させようとすることをリフレといいます。リフレとはリフレーション(再膨張)の略語です。インフレ(通貨膨張)とデフレ(通貨収縮)が循環することを前提として、デフレの時期に再び経済および通貨を膨張させようとすることをリフレと呼びます。

 

リフレを主張する経済学者の代表格は、2008年にノーベル経済学賞を受賞したアメリカのポール・クルーグマン氏です。また、アメリカの中央銀行制度を司るFRBの議長を2014年まで務めた経済学者ベン・バーナンキ氏もリフレ政策を支持し、実際にマネーサプライを大幅に増やすことでアメリカの景気を回復させました。

 

そこで、ようやく日本でも同じようにインフレ目標を設定して、リフレを目指すことにしたのが、ご存じの通り安倍政権です。そのために日本の中央銀行である日本銀行(日銀)の総裁に任命されたのが黒田東彦氏です。同時にリフレ派経済学者の代表である岩田規久男氏が副総裁に任命されました。

紙幣を刷ることはできても、自由に使えるわけではない

では、政府と日銀は、どのようにしてマネーサプライを増やそうとしているのでしょうか。

 

かつて、FRB議長に就任する前に、ベン・バーナンキ氏は、冗談で「不況から脱出したければ、ヘリコプターから紙幣をばらまけばよい」と発言して、ヘリコプター・ベンの異名をとったそうです。事の真偽は不明ですが、「日本銀行はマネーサプライを増やすためにケチャップでも何でも買えばいい」と助言したといわれています。

 

中央銀行は紙幣を発行する権限を持っているのだから、いくらでも紙幣を印刷して世の中に流通させればよいとの趣旨ですが、それで本当に大丈夫でしょうか。

 

実際、各国の中央銀行は、その気になればいくらでも紙幣を印刷することができるのですが、そんなことをすればその通貨の信用がなくなってしまい、リフレどころか歯止めの利かないハイパーインフレになってしまいそうです。

 

実は、そのような危機が起きないように通貨の発行量を管理するのが中央銀行の役割なのです。中央銀行とは、決して政府のお財布ではありません。中央銀行がいくらでも紙幣を刷れるからといって、政府が無尽蔵にお金を使えるわけではないのです。

 

通常、政府には税金という収入がありますが、それだけでは足りないという場合は、国債を発行してお金を調達します。国債とは政府の借用書のことです。「きちんと金利をつけて返すから、誰か貸してください」と頭を下げて、お金を借りるわけです。

 

このとき、政府にお金を貸してくれるのが投資家です。投資とは、お金の必要な人にお金を融通することです。投資家がいなければ、民間会社はもちろん、政府や自治体などの公共機関だって困ってしまうでしょう。

 

ちなみに、日本の場合、国債の引き受け手としてシェアの多くを占めているのは、銀行や生保など国内の民間金融機関と年金基金などの機関投資家です。個人向け国債も発行されていますがその割合は少なく、また海外の投資家による保有率も10%以下となっています。

 

この話は次回に続きます。

本連載は、2014年7月29日刊行の書籍『インフレ時代の投資入門』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

インフレ時代の投資入門

インフレ時代の投資入門

杉浦 和也・前野 達志

幻冬舎メディアコンサルティング

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