前回は、インフレに対する危機意識を持つべき理由を説明しました。今回は、インフレになると具体的にどうなるのかを見ていきます。

インフレが起きる原理は「オークション」と同じ

簡単に説明すれば、モノが不足するからです。市場にモノが不足しているのに、欲しいという人がたくさんいると、オークションと同じでモノの値段が吊り上がります。需要が多くて供給が追いつかなければ、高い値段を出しても買うという人が増えて、インフレになるのです。

 

分かりやすい例をあげると、日本のバブル景気時代の株式と不動産があります。日本国内の不動産も株式もその量は限られていてすぐに増やすことができないにもかかわらず、好景気で余ったお金を資産に変えようと、多くの人が株式と不動産を買ったために、両者の値段がインフレ状態になりました。

 

1984年には1万円前後だった日経平均株価が、5年後の1989年の年末には3万9000円近くにまで上がったのですから、いかに需要が多くて急騰したかがよく分かります。

 

同じく土地も、1984年には東京23区の商業地で平均坪単価が521万円だったものが、1990年には2705万円になっていました。あの時代に、どれだけ多くの人が株式と土地を買ったかがよく分かります。

 

冷静になってみれば信じられない価格ですが、どちらも買ってしばらくして転売するだけで利益が出たのですから、多くの人が欲しがり、そのせいでさらに価格が上がるインフレサイクルが生まれていました。

 

これらの資産インフレは、日本政府による「土地関連融資の総量規制」と、日本銀行による「金融引き締め」によって終焉を迎えました。いわゆるバブルの崩壊です。政府や日銀の意向は、市場に大きな影響を及ぼさずにはいないのです。

 

[図表]日経平均株価推移

インフレ時は例外なく通貨の供給量が増えている

ここで一つ注意すべき点があります。どんなにたくさんの人が、欲しいモノに対していくらでもお金を出すと言ったとしても、実際に世の中にそれだけの量のお金が出回っていなければ、お金を出せるようなお金持ちは限られてしまいます。

 

そうなると、いくらモノが限られていても競争が激しくならず、価格もそれほど吊り上がりません。参加者全員が10万円ずつしか持っていないオークションでは、モノの価格が10万円以上になりえないのと同じことです。

 

つまり、世の中に出回っているお金の量自体が増えていなければ、それほど急激なインフレにはならないはずです。ですから、実際にはインフレのときというのは、例外なく世の中に出ているお金の量が増えています。

 

日本のバブル景気の頃は、好景気のおかげで貿易黒字が増大し、世界各国から日本国内にお金が流入してきている状態でした。それらの余ったお金が株式や土地に向かってしまったために、資産インフレが起きたのです。

 

このようにインフレの背景には、通貨量の拡大と、需要に比べて供給の不足が見られます。

 

もう一つ、日本のインフレの例を見てみましょう。

 

第二次世界大戦での敗戦後、日本は極度のインフレに見舞われました。その理由として、戦争が終わったことにより民間復興需要が増したのに、戦時中に生産設備が破壊されていたため、供給が追い付かなかったことがあげられます。さらに、戦時中に戦費調達のために政府がお金を発行し続けて、通貨が供給過剰になっていたことがあげられます。

 

その結果、1945年10月から1949年4月までの3年半の間に、消費者物価指数が公定価格ベースで約100倍になるような極端なインフレが起きてしまいました。100倍のインフレというのは、現在であれば、例えば300円の牛丼が3万円になるような物価高騰のことです。500円のコーヒーは5万円になり、6万円のタブレットが600万円になります。

 

以前に聞いた話ですが、戦時中に徴兵された際に、妻子が3年間は暮らしていけるだけの貯金を残していったのですが、戦争が終わって帰国すると、虎の子の貯金の価値がほとんどなくなっているのを知って愕然とした人がいたそうです。

 

インフレが起きると、貯金の価値はどんどん減じていきます。100倍のインフレとは、たとえてみれば、1000万円の貯金が、10万円の価値しかなくなってしまうようなものです。

 

10%のインフレでは、1000万円の貯蓄が1年後に900万円の価値になってしまうということです。インフレが怖いといわれているのは、そのような理由からです。せっかく老後のためにと貯めておいたお金も、急激なインフレが進むとどんどん価値がなくなってしまうのです。

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