日本は江戸時代から「持続的なインフレ状態」にある
時代をさかのぼれば、1970年には100円があれば、上野動物園に大人一人が入園できました。現在、上野動物園の大人の入園料は600円です。モノやお金の価値は一定ではなく、変動し続けています。
そして、歴史を振り返れば、お金の価値というものは長期的に下落し続けてきました。かつては100円でレストランのフルコースが食べられましたが、今では缶コーヒー1本も買えません。これは100円の価値が下がってしまったからです。
お金の価値が下がったということは、モノの価値が上がったということです。100円で缶コーヒーが買えなくなったということは、お金の価値が下がったともいえますし、缶コーヒーの価値が上がったともいえます。このように、お金の価値が下がって、モノの価値が上がることをインフレといいます。
20年間にわたる長期的なデフレ時代しか知らない若い人には想像もつかないかもしれませんが、日本という国は江戸時代からこのかた持続的なインフレ状態にありました。経済学者の竹中平蔵氏によると、120年前(明治半ば)と現在とを比べると物価はおよそ3000倍になっているそうです。
ちなみに、1890年に帝国ホテルが開業したとき、その宿泊料が大人1人で2円50銭だったそうです。今は4万円以上しますから、ホテル代という観点から見ると3000倍どころの話ではありません。
[図表]消費者物価指数推移(1950~2014年)
1950年からの日本の消費者物価指数の推移を見てみましょう。90年代半ばから20年間にわたってデフレが続いていますが、それ以前は恒常的にインフレが続いていたことがよく分かります。1950年の時点の物価を1とすると、40年後の1990年には物価が8倍になっているのです。
100年単位で見れば、お金の価値は下がり続けている
若い人はデフレしか経験していないでしょうから、インフレ(物価の上昇)なんてあまり信じられないかもしれませんが、バブルを経験した私の世代にとって、物価とそれに伴う株価の上昇はなかば当たり前の世界でした。
私が大学を卒業して資産運用会社に入社したとき、日経平均株価は1万2000円でした。それから4〜5年のうちに株価は3倍になりました。もちろん物価も、株価ほどではありませんが、上昇しました。
当時の投資家は現金や預金のままで資産を保有しておくと価値が下がることをよく理解していて、今買わないと損をするとばかりにお金を使っていました。それが株なのか土地なのかゴルフ会員権なのかは人それぞれの好みでしたが、いずれにせよお金よりもモノのほうが安心で利益を生む資産であるとの感覚は誰もが共通に持っていました。
今の若い人は反対に、お金こそが最も安心・安全な資産であると感じていることでしょう。それはたまたま近年の20年間が、デフレによって消費者物価指数が下がり続けた時代だったからです。
特に、若い人はテレビやパソコンなどの電気製品に対して、「今買わなくても待っていれば価格が下がる」という消費態度が身についてしまっていることでしょう。それはそれで時代に適応した賢い戦術だと思います。
しかし、モノが大事だったバブル期の若者も、カネが大事であるデフレ期の若者も、自らの経験しか信じていないという意味では、近視眼的で、あまりほめられたものではありません。
歴史にはどちらも起こりうることを学んだうえで、今がデフレであればインフレに備え、インフレであればデフレへの備えを怠らないのが本当に賢い戦略です。
なお、インフレは日本だけの現象ではありません。世界のどの国を見ても、100年単位で歴史を眺めれば、例外なくインフレが続いており、お金の価値はどんどん下がっています。
現代人にとってはインフレこそが当たり前であり、日本の経験した長期的なデフレこそが異常事態なのです。