見込めない金利上昇…預金の目減りは避けられない
仮定の話ですが、今あなたに1000万円の貯金があるとします。今後、政府のインフレ目標2%が毎年達成されるとすると、その貯金の価値は毎年2%、つまり20万円ずつ目減りしていくことになります。
もちろん、その1000万円を銀行に預金しているのであれば、わずかな金利はつきますが、2014年4月現在、定期預金の金利は0.1%程度です。毎年1万円の利息があったところで、目減りは避けられません。
そんなことはない、と反論する人はいるかもしれません。インフレが続くのであれば、必ず金利も上がっていくはずだ、と。確かに、これまでの歴史を振り返ればその通りです。しかし、今回の場合も当てはまるでしょうか。
金利が上がるというのは、経済学の需要と供給の原則からいえば、お金を借りたい人がたくさんいる(需要が多い)にもかかわらず、お金を貸したい人が少ない、あるいはお金自体が足りない(供給が少ない)場合です。
インフレになって景気がよくなれば、皆がお金を使って消費や投資をするようになるので、確かに需要は多くなります。需要が多くなれば、自然と供給が不足気味になるのですが、今回に限ってはそうとは言いきれないかもしれません。
なぜならば、日銀の金融緩和によって市中に十分なお金の供給があるからです。そして日銀が金融緩和をする理由は、金利が上がりすぎると、せっかくの景気回復に歯止めがかかってしまうからです。
その理由は次の通りです。まず、金利が上がると、企業がお金を借りてまで新規投資を行わなくなります。つまり民間投資にかげりが見えてきます。そうなると消費者も、将来の景気減退を懸念して、消費や投資に消極的になります。それによって、本当に景気が冷え込んでしまうのです。
そもそも、金利の上昇は、中央銀行がインフレを抑制するために、意図的に通貨供給量を減少させる金融引き締めの結果として起こるものです。しかし今回、日銀は通貨供給量を劇的に増やす異次元緩和を行い、まったく逆の方向を目指しています。意図的にインフレを起こすことで景気を回復させようとしているのです。
早すぎる金利の上昇による景気の冷え込みは、何としても抑えねばなりません。政府と日銀が金利上昇を抑えようとしている以上、金利はなかなか上がっていかないと見るべきでしょう。
日銀は「長期金利の上昇」を抑え込むことに躍起
景気減退の原因のほとんどは、長期金利の上昇によって経済活動に歯止めがかかってしまうことだといわれています。そのため、今回、日銀は長期国債の買い入れを年間50兆円ペースで行うことによって、長期金利の上昇を抑え込もうとしています。
国債というものは日本政府の借金ですが、大量に発行して引き受け手(貸し手)が少なくなると、お金を借りるために金利を引き上げねばなりません。
しかし、安全な投資先である国債金利の上昇は、市中金利をも上昇させてしまいます。そのようなことにならないように、日銀が国債を買い支えるというのが、日銀の異次元緩和の発表の趣旨です。
この年間50兆円というのは、政府が1年間に発行する国債の総額である45兆円よりも多いものです。つまり、日本政府の借金はすべて日銀が紙幣を刷って肩代わりするとの宣言でもあるわけです。
であれば、この政策が続く間、日本国債の金利が上昇することは想像できません。その代わりに、通貨供給量がどんどん増えますから、インフレ懸念はますます高まっていくといえるでしょう。
政府と日銀は、金利が上昇することで、再び預金が増えて、投資が減少し、経済活動が停滞することを恐れています。だとするならば、よほど景気がよくなって、それこそバブルが膨らんで、抑制しなければならなくなるまで、金融引き締めを行うことはないでしょう。
それがいつになるかは分かりませんが、少なくともそれまで金利が抑えられたままインフレが続くのであれば、預金だけでは資産価値の減少は避けられません。