ますます魅力を増すホテルへの投資
国内では、観光庁によると2023年1月-8月の累計の訪日外客数は約1,519万人(2019年比▲31.4%)、8月単月では約216万人(2019年同月比▲14.4%)まで回復した。また2023年8月の宿泊旅行統計は延べ宿泊者数が2019年同月比▲1.5%となった。
旅客数が回復したこと、国内外の宿泊者が2019年よりもやや長く滞在する傾向であること、円安を背景に海外旅行が避けられたこと※1などが、国内延べ宿泊者数の増加に寄与したと見られる。
またオータパブリケイションズによると、2023年7月のホテル客室稼働率は全国が73.8%(2019年比▲6.5%)となった。都市別では、札幌87.0%(▲3.9%)、福岡79.2%(▲7.1%)、東京77.7%(▲8.4%)の順に高稼働率となっている(図表1)。
ただし、ホテル業界ではコロナ禍で流出した人材がホテル業界に戻らず、新たな人材育成には時間を要しており、人材不足から2019年と同等の稼働率に戻すことが難しい施設が多い。
稼働率下落により低下した収益を改善するには宿泊料金を上げる必要がある。直近の宿泊料金は2019年の水準よりも高く、上昇した宿泊料金と下落した稼働率を考慮した国内ホテルの売上高は2019年の水準を上回っている。
もし現在の宿泊料金の水準を維持したまま稼働率が戻れば、売上高はさらに増加するかもしれない。ホテルへの投資はますます魅力を増している。
しかし、懸念がないわけではない。
一つ目は建築費の高騰である。建築物価調査会によると、2023年8月のホテルの建築費指数(工事原価、2015年平均=100)は123.7となった。原材料費上昇・部材の価格改定・人件費上昇など、高騰の要因は多く、さらに上がる可能性も高い。
一方、国土交通省によると2022年の宿泊業の建築着工床面積は約120万m2(前年比▲9%、2019年比▲53%)に留まった。建築棟数は2,374棟(前年比+67%、2019年比+3%)と増加したが、1棟当たりの規模は約半分となった(図表2)。
建築費が高くなりがちなラグジュアリーホテルを筆頭に新規ホテル建設の収支計画が難しくなっており、実際にいくつかのプロジェクトが計画の白紙撤回や、完成後の早期売却を公表している。