(写真はイメージです/PIXTA)

日本では深刻な「少子化」が進み、2023年6月には「こども未来戦略方針」が閣議決定されました。少子化の原因として若年層の経済的不安などが挙げられます。そこで本稿では、ニッセイ基礎研究所の坂田紘野氏が、少子化問題を念頭に置きつつ、社会全般にみて若年層がどれほど経済的に苦しい状況に置かれているかについて解説します。

「こども未来戦略方針」の範囲外にある「未婚」問題

しかし、前項でも述べた通り、少子化問題の原因は子育て世帯が理想の子どもの数を持てていないことだけではなく、未婚の若年層が増えていることもその一因となっている。

 

未婚率は上昇傾向にあり、2020年には、25~29歳の女性の62%、男性の73%が未婚であった(図表4)。また、人口減少の影響もあり、1970年には約1743万世帯であった児童のいる世帯数は、2022年には約992万世帯にまで減少した(図表5)。

 

それにもかかわらず、こども未来戦略方針には、未婚の若年層やまだ子どもを持っていない世帯の経済状況の改善に資するような具体的施策はほとんどみられない。

 

確かにこども未来戦略方針においては、「若い世代の所得を増やす」「社会全体の構造・意識を変える」といった基本理念が示されている4。しかし、これらの基本理念に沿って掲げられている政策は未だ抽象的なものにとどまっているように思われる。

 

 

だが、少子化問題の改善を図るにあたっては、これらのこれから子どもを持つ人々への支援もまた、重要であると思われる。かかる状況下において、若年層はどれほど経済的に苦しい状況に置かれており、なぜ、将来の経済的な不安を抱えているのだろうか。

 

本稿においては、少子化問題を念頭に置きつつ、社会全般にみて若年層がどれほど経済的に苦しい状況に置かれているか、について確認する。

 


4 「こども未来戦略方針」には、「全てのこども・子育て世帯を切れ目なく支援する」との基本理念もあり、計3つの基本理念が示されている。

3―20代の実質賃金水準は増加傾向

社会全般にみて若年層がどれほど経済的に苦しい状況に置かれているか、を確認するにあたって、はじめに若年層の賃金水準の推移を明らかにする。

 

昔と今の賃金水準の比較に際しては、物価水準の影響を除くため、所定内賃金額を消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)で割って算出した実質賃金を用いる。

 

この実質賃金の水準の推移を確認すると、20代男女の賃金は、いずれの区分においても増加傾向を示している(図表6)。前項の記述に反して、若年層の実質賃金水準は以前よりも上昇していることが読み取れる。

 

この理由としては、人手不足等を背景に新卒等の処遇改善が進められてきたことの影響が考えられる。また、男性よりも女性の方が実質賃金水準の上昇率が大きいことについては、女性の社会進出が進んだことが影響していると思われる。

 

 

それにもかかわらずなぜ、少子化問題に関しては、若年層の経済的な不安が課題として取り上げられることが多いのだろうか。以下では、その理由となりうる要因について取り上げる。

次ページ4――それでも経済的に苦しい理由

※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年11月2日に公開したレポートを転載したものです。

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