金融政策自体は「当面現状維持」が続くと予想されるワケ
2023年度の設備投資計画(全規模全産業)は前年比13.0%増となり、前回6月調査(11.8%増)からやや上方修正された。前回調査からの上方修正幅は1.2%ポイントで例年2並みとなっている。
例年9月調査では年度計画が固まってきて投資額が上乗せされる傾向が強いうえ、資材価格や人件費の上昇を受けて、投資額が嵩みやすくなっている面も押し上げ材料になったとみられる3。
ただし、実態としても、既往の収益回復を受けた投資余力の改善、経済活動の正常化の流れ継続、脱炭素・DX・省力化・サプライチェーンの再構築等に伴う投資需要を追い風として、堅調な設備投資計画が維持されていると言えるだろう。
注目された販売価格判断DI(大企業)については、仕入価格の上昇鈍化を受けて、総じて足元で販売価格への転嫁の勢いがやや和らいでいる。
先行きも大企業では仕入価格上昇の勢いが和らぎ、販売価格の上昇圧力も後退することが想定されている。一方、中小企業ではこれまで仕入価格上昇の販売価格への転嫁が遅れ、マージンが圧迫されてきた影響とみられるが、販売価格引き上げの勢いを維持する方針が示されている。
なお、価格判断と関連して、企業の物価見通し(全規模)は引き続き高止まりしており、各期間ともに日銀の物価目標である2%を上回った状況が維持されている。実際の物価上昇率が未だ2%を大きく上回る水準で推移していることが作用しているとみられ、今後の企業の価格・賃金設定への影響が注目される。
日銀は今のところ、「賃金の上昇を伴うかたちでの2%の物価安定の目標の持続的・安定的な実現を見通せる状況には至っていない」との判断のもと、その実現可能性を慎重に見定める基本方針を維持している。
今回の短観では、大企業景況感の改善や堅調な設備投資計画、予想物価上昇率の高止まりが示されており、これらの点は、日銀による正常化方向へのさらなる政策修正を正当化する材料になり得る。一方で、中小企業の景況感回復の遅れや、海外経済の下振れ懸念等を反映したものとみられる先行きにかけての慎重な景況感は日銀にとって警戒すべき材料になるだろう。
先月上旬に報道された植田総裁のインタビューを発端として、市場では早期のマイナス金利解除観測が台頭しているが、筆者は正常化に向けたさらなる政策修正にはまだ時間がかかると見ている。
日銀は7月末の金融政策決定会合においてYCCの柔軟化(長期金利の許容上限を最大1%に引き上げる内容)を決定したばかりであり、しばらくはその影響を見定める時間帯と考えている可能性が高い。
また、物価目標達成判断の大きなカギになる賃金上昇の持続性については、やはり来春闘の情勢を見定める必要があり、まだかなりの時間がかかるはずだ。
今後の海外経済や価格転嫁の動きや影響も不透明で見極めに時間を要する。従って、円安抑制を暗に意図したフォワードガイダンスの部分的な修正や国債買入れの縮小といった措置の実施は否定しないものの、金融政策自体は当面現状維持が続くと予想している。
2 2013~22年度における9月調査での修正幅は平均で+1.2%ポイント
3 GDP統計における設備投資デフレーター(四半期次)は2021年終盤以降、前年比3~4%台で推移。
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