台頭する2つの国産化粧品ブランド
化粧品・メイクアップ分野は長らく海外ブランドの天下でしたが、近年、国産ブランドの台頭が顕著になっています。ここでは、スキンケアブランドの「林清軒(リンシンシュン/LinQingxuan)」とコスメブランドの「花西子(フローラシス/Florasis)」を事例として取り上げます。
①危機を転機に変えて躍進する「林清軒」
林清軒は2003年創業で新興ブランドではありませんが、デジタル手段の活用で危機を転機に変えて新たな発展を遂げています。植物由来のオーガニックコスメ、特に山茶花(さざんか)オイルを看板商品にし、全国で300以上の店舗を展開しています。
百貨店を中心とした販売チャネルでビジネスが順調に拡大したところに、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大によって売上が急減し、業績不振に。その打開策としてアリババのタオバオライブにて創業者によるライブコマースを始めたところ、それが功を奏し、前年同期より大幅な売上増を実現しました。
デジタルの威力で危機を乗り越えた林清軒はデジタル化を積極的に推し進めており、ハイエンドの中国スキンケアブランドを志して再出発しています。
②「国潮」ブームの追い風を受ける「花西子」
花西子は2017年創業です。ブランド名にもある「花」を意識して「花で美しくなる」をコンセプトに掲げています。肌に優しい天然植物由来のエッセンスを使用したコスメ作りで、「東方美(東洋の美)」をコンセプトに、古典の美を目指しています。商品の品質だけでなく、容器やパッケージのデザインなど、細部までこだわっています。
その特徴は中国風の華やかなデザインであり、豊かな感性と芸術性を持つ美しさが話題を呼んでいます。「国潮」ブームで中国の伝統的文化やデザインを取り入れる商品が人気を集める中、様々なプラットフォームでのアピールにも力を入れています。
その結果、同社の売上高は2018年の4000万元から2021年には54億元まで急増しています。また、2022年の「独身の日」セールでは、海外の有名ブランドを抑え、コスメ売上高ランキングの1位を獲得しています。
そして花西子は2022年秋に杭州に初めての旗艦店をオープンさせました。なぜ消費力の高い1級都市の北京や上海ではなく、新1級都市の杭州で出店したかというと、杭州が持つ「東方美」という都市イメージがブランドイメージと最も合致しているからです。
昔の詩人は「上有天堂、下有蘇杭(天に極楽あれば、地に蘇州と杭州あり)」と、蘇州と杭州の風光明媚な景観と魅力を表現しました。蘇州も杭州も古き良き中国の趣がある都市です。
一方では、長江デルタに位置するため、「改革・開放」以降の経済発展によって現代都市へと変貌を遂げています。特に、浙江省の省都である杭州は、西湖や霊隠寺などの観光名所で「東方美」を擁する美しい街としての知名度が高く、伝統文化と豊かな自然環境が最もうまく融合されている都市とされています。
また現代都市としての側面としては、近年、アリババの本社所在地としてその存在感が大きくなっています。花西子は杭州の魅力を活かし、ブランドの魅力を高めようとしているのです。
なお、海外進出にも乗り出している花西子は、多くの中国企業が選ぶ東南アジア市場ではなく、経済が成熟した欧米諸国や日本に注力しています。2020年から日本のアマゾンで販売を始め、また自社サイトも立ち上げて、日本でも多くの女性から支持を集めています。
趙 瑋琳
株式会社伊藤忠総研 産業調査センター
主任研究員
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