「下沈市場」の特徴
「下沈(シャアチェン)市場※」の成長性は明らかになっていますが、攻略するためにはまず、その特徴と成熟している大都市や沿海部市場との相違を把握する必要があります(図表1)。
*「996」とは朝9時から夜9時まで週6日働くことを指す略称で、都市部の大手企業やテック企業によくあるワークスタイル
沿海部や大都市での忙しい生活と対照的に、「下沈市場」では朝9時から仕事を始め、夕方17時の定時で帰る働き方が主流です。そのため、時間的余裕があり、暇つぶしのための消費活動を求める傾向が顕著です。
一方で、レストランや映画館、カラオケなど選べる娯楽活動は限られています。そのため、スマートフォンを使い、気軽に閲覧できるショート動画にはまりやすいわけです。
大都市の消費者が追い求める「消費昇級(消費のレベルアップ)」と比べると、コストパフォーマンスを重視する傾向が強いのも、「下沈市場」の消費者の特徴です。企業にとっては低価格が依然として最有力の武器であるため、価格の優位性を確保する必要があります。
ただ、購買力の向上によって、以前と比べると「下沈市場」の消費者も、「消費昇級」によってより良いモノ・サービスを求めるようになりつつあるという側面もあります。「下沈市場」で価格競争よりも重要だと思われるのが、地域の特性を意識した、モノ・サービスのローカライズ戦略です。
「1級都市」での成功体験を真似しても「下沈市場」では勝てない
ある日系コンビニが江蘇省無錫市に位置する県級市で「下沈市場」に当たる3級都市の江陰市に進出したときの話です。大都市で売れ行きの良い弁当を目玉商品として出したところ、最初の2、3日の売上は好調だったのですが、その後は伸び悩んでいました。
その理由を調べたところ、江陰市の昼休み時間は2時間前後もあり、急いで弁当を買って食べる人はほとんどいないことが明らかになりました。最初は弁当のおいしさを知りたいという興味から買った人が多かったのですが、その多くの人は一度食べれば十分だと思ったそうです。
この事例はローカライズの重要性を示すと同時に、「下沈市場」への攻略の難しさも浮き彫りにしています。「下沈市場」で成功したければ、1級都市などでの成功体験を真似すれば良いという考え方をまず捨てるべきです。
人間関係の濃さが消費行動にも影響
また、人間関係が非常に濃いという点も大都市との大きな違いです。沿海部や大都市では他人のSNS上の発信や口コミを頻繫にチェックし、買い物やサービスを利用する前にも必ず見ると言います。
しかし、「下沈市場」では普段の活動範囲が限られているため、情報の伝播も獲得もコミュニティに依存する傾向があります。特に3級都市から4級都市、さらに村まで、行政レベルが下に行けば行くほど、良くも悪くも顔の見えるコミュニティの存在が大きくなります。
ECプラットフォームのPDDはSNS型ECとも呼ばれ、国民的なSNSアプリ「微信(ウィーチャット/Wechat)」のユーザー基盤を活用し、そこで情報共有された商品を多くのユーザーの購入につなげるビジネスモデルを構築しています。友人との共同購入で割引が受けられる特典がある中で、「下沈市場」では親友や知り合いからの共同購入リクエストを断れなくて、商品を購入することになる人も多いと言います。
個人店舗やセレクトショップが多くある「下沈市場」では、オーナーは必ずSNSツールで顧客との関係作りに努めています。最も一般的なやり方として、ウィーチャットで顧客専用のグループを作って、毎日のように新商品の情報を紹介しながら、顧客とのコミュニケーションを図る方法です。こうして消費者との信頼関係を作ることが、新規ユーザーの獲得や新たな購入につながっています。
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