習近平政権「中間層が多い社会」を目指す
中国政府は2021年8月から「共同富裕(共に豊かになる)」というスローガンを掲げ、中間層の多いオリーブ型社会を目指そうとしています。「共同富裕」は新しい考え方ではありません。もともと建国の父とされる毛沢東氏が、1950年代に、社会主義の中国が目指す目標として提唱したコンセプトでした。
しかし現実では経済発展に伴って格差が拡大することになりました。公平性に欠けた経済優先の政策によって社会不満が高まってしまったのです。
習近平政権はこれらの問題を意識し、政権の求心力も高めるために「共同富裕」に踏み込んだと見られます。「第14次5ヵ年計画・2035年長期目標」には「2035年までに全国民による共同富裕が確実な成果を得る」ことが盛り込まれています。
「共同富裕」の実現に向けて、国民生活と福祉の拡充による格差の是正、三次分配による所得格差の調節・企業の社会還元、農村の経済開発や生活環境改善などに力を入れる農村振興、一連の取り組みを先行するモデル地域としての浙江省モデルの確立といった側面から着手しています(図表1)。
*(注)双減とは宿題の削減と塾の禁止
中でも、農村振興が必要不可欠な部分で、農村地域で貧困脱出の次に達成すべき目標としています。中国で毎年、年初に打ち出される政策「中央一号文件」は、2004年から変わらず「三農問題(農民・農業・農村)」をテーマにしています。2022年の「中央一号文件」ではここ数年注力している農村地域の消費喚起とデジタル農村の建設の重要性を改めて強調しています。
急進展する「デジタル農村」
中国は農村地域の貧困層がすべて貧困から脱出できたとして、2021年に「小康(ややゆとりのある)社会」の実現を宣言しました。前述したように、貧困脱出の次の目標として農村振興が挙げられています。これも決して新しい発想ではありませんが、実現する手段が従来のインフラ整備からデジタル化に変わりつつあります。
交通インフラの整備が進む
数十年前から農村地域では「要想富、先修路(豊かになるには道路の整備から)」のスローガンがよく見かけられるようになりました。当時、農村地域の発展とインフラ建設にはまず、道路の整備が不可欠との考えがありました。その考えを定着させるために上述したスローガンが壁に掲げられ、道路整備の重要性が訴えられたのです。
中国の道路の総距離は1978年に89万キロだったのが、2021年には528万キロに達しています。中でも農村地域の道路は447万キロ超で全体の約84%を占めており、農村と農村、農村と都市をつなぐ重要な交通インフラとなっています。道路の整備は農村地域での移動をよりスムーズにしながら、農村・都市間の物流効率を高めています。これは農村地域の電子商取引(EC)の発展につながる重要な基盤となっているのです。
同時に、中国は2020年4月から「農村地域における配達普及3年行動計画」を公布し、農村地域の配送ネットワーク拡大に注力していました。2022年7月中旬には中国国家発展改革委員会と交通輸送部が2035年までの「国家道路網計画」を公布し、高速道路網をさらに広め、20万人都市だけでなく10万人超の市・県もカバーする計画です。これによって農村地域における高速道路の整備も加速していくと見られます。
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