ネット・スマホ・自撮り棒が生活に不可欠な「新農具」に…急速に発展する「中国デジタル農村」の現状【伊藤忠総研・主任研究員が解説】

ネット・スマホ・自撮り棒が生活に不可欠な「新農具」に…急速に発展する「中国デジタル農村」の現状【伊藤忠総研・主任研究員が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

中国では2021年8月から「共同富裕(共に豊かになる)」というスローガンを掲げ、国内における格差縮小を目指しています。実際、道路やインターネットなどのインフラが普及したことにより、農村でのデジタル化が進み、農作物のEC販売ビジネスが目覚ましい発展を遂げているのです。本記事では、株式会社伊藤忠総研・主任研究員の趙瑋琳氏の著書『2030年中国ビジネスの未来地図』より、これからの中国における経済発展のカギを握る「農村のデジタル化」について解説します。

急速に普及するデジタルインフラ

交通インフラが整備されている一方で、ここ数年、時代の変化とともに、デジタルインフラが急速に普及しています。都市部では道路や空港など従来のインフラ建設から、5Gをはじめとするデジタルインフラや電気自動車充電設備など新型インフラの建設へ軸足を移しています。農村地域でも、都市部とのデジタルデバイドがあるものの、デジタルインフラが急ピッチで整備されつつあります。

 

「第13次5ヵ年計画(2016~2020年)」の5年間において、農村地域のデジタル化は急進展を遂げていたのです(図表2)。

 

(注) 2025年のデータについて、農産物のEC販売総額は「全国農業農村情報化発展計画(2021─ 2025年)」の目標値、そのほかは筆者の予測値 (出所)中国国家統計局、工業・情報化部の公開データを基に作成
[図表2]着実に進展している農村地域のデジタル化(2015〜2025年) (出所)中国国家統計局、工業・情報化部の公開データを基に作成**

 

**(注) 2025年のデータについて、農産物のEC販売総額は「全国農業農村情報化発展計画(2021-2025年)」の目標値、そのほかは筆者の予測値

 

ネット人口は2006年にわずか2300万人だったのですが、2009年に1億人を突破し、2020年には3億人を超えました。ネット普及率も2020年に55.9%に達しています。前述したように、農村地域では携帯電話が急速に普及し、それがネット人口とネット普及率の増加の追い風となっているのです。また、2021年末には、農村地域におけるブロードバンド回線の普及が実現しました。

 

中国は既に世界最大規模の先進ネットワークインフラを築き上げています。2022年6月末時点で5G基地局数は185万超となり、5Gの携帯電話ユーザー数が4億人を突破しました。国有通信事業者である「中国聯通(チャイナユニコム)」は大手通信機器メーカーの「華為(ファーウェイ)」と連携し、農村地域における5G基地局の構築を急いでいます。

 

道路整備を経て新たなステージに入ったデジタルインフラの整備を後ろ盾に、目覚ましい発展を遂げているのがEC関連ビジネスです。EC関連販売総額は大幅に伸びており、今後も増加していくでしょう。農村部でのEC販売拡大は、農村部の従来の消費範囲を超えた消費を可能にし、農村住民の暮らしをより豊かにしています。

 

一方で現在、農村部では、ネットワーク、スマートフォン、自撮り棒が生活に不可欠な「新農具」と呼ばれています。農村部の住民はこれら新農具を使って、特産品や農産品を全国の消費者に直売するライブ配信型EC「直播電商(ライブコマース)」に熱心に取り組んでいるのです。

 

こうしてデジタル化が農村振興の新しい手段となり、農村地域はデジタル農村に向けて新たな変化を遂げようとしています。デジタル農村が「数字中国(デジタルチャイナ)」という新発展戦略の成功を握るカギとなっているのです。

 

 

趙 瑋琳

株式会社伊藤忠総研 産業調査センター

主任研究員

 

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2030年中国ビジネスの未来地図

2030年中国ビジネスの未来地図

趙 瑋琳

東洋経済新報社

気鋭の研究者が中国の「新消費」・「新ブランド」・「新市場」を徹底解説! 日本人がまだ知らない一歩先の中国ビジネスとは? 「世界の工場」から「世界の市場」へと変貌した中国ですが、「常に変化し、唯一、変化していない…

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