
エリート官僚のキャリア、突然終わる
官僚としてのキャリアを積み上げてきた柴田哲也さん(仮名・55歳)。本省課長(10級21号俸)で、いわゆるエリートコースを歩んできた国家公務員でした。大学卒業後、国家公務員試験に合格し、順調に出世を重ねてきましたが、55歳で勧奨によって退職。仕事一筋の日々に別れを告げました。
国家公務員の退職には、自発的な定年退職のほかに「勧奨退職」という制度があります。これは、組織の新陳代謝を促し、若手職員の昇進機会を確保する目的で、一定の年齢に達した職員に対し、早期退職を促すものです。
勧奨退職に応じると、通常の退職金に加えて上乗せの給付があるケースもあります。そのため、一定数の職員が55歳前後で勧奨退職を選択し、再就職や第二の人生を模索することになります。
しかし、民間企業と異なり、国家公務員のキャリアは専門性が高いため、転職市場では必ずしも有利とは限りません。もちろん、いわゆる天下りというセカンドキャリアもありますが、それはごく一部。多くは再就職先の選択肢が限られることもあり、「退職後のキャリア設計」に悩むケースが少なくないのです。
そのような実情から勧奨に対してNOという人もいます。しかし哲也は、退職金5,000万円近くを手にしたことで、「これだけの退職金があれば、夫婦二人で十分暮らしていける」と考えて退職を決断しました。
ところが、退職後間もなく、妻の真由美さん(仮名・53歳)から告げられたのは「もう限界」という言葉でした。退職後は夫婦でゆっくり過ごせると思っていた柴田さんにとって、それは思いもよらぬ出来事だったのです。