経済だけでなく社会保障も大きく差がある…「中国・地域格差」のリアル【伊藤忠総研・主任研究員が解説】

経済だけでなく社会保障も大きく差がある…「中国・地域格差」のリアル【伊藤忠総研・主任研究員が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

農村部と都市部での経済格差が問題となっていた中国ですが、2011年から徐々に格差が縮小しています。また、特に産業化が進んでいる東部沿海地域と内陸地域とのあいだの格差にも変化が生じているようです。本記事では、株式会社伊藤忠総研・主任研究員の趙瑋琳氏の著書『2030年中国ビジネスの未来地図』より、中国国内における地域間格差の現状をデータから解説します。

沿海地域と内陸地域とのあいだの格差

都市群とは別に、中国国家統計局が地域別のデータを発表するときに用いられる地域分類があります。それが東部、中部、西部、東北部という4つの地域分類で、中国の31の省・直轄市・自治区が含まれています(図表3)。東部は一般に沿海地域を指し、中部と西部は内陸地域とも呼ばれています。

 

(出所)中国国家統計局の分類基準を基に作成
[図表3]中国の主要地域分類 (出所)中国国家統計局の分類基準を基に作成

 

「改革・開放」以降、その政策の恩恵を最も受けやすい東部沿海地域が目覚ましい発展を遂げています。しかし一方では、沿海地域の高成長と対照的に、中部や西部などの内陸地域が後れをとっていることがよく指摘されています。これが中国における格差問題の1つである地域格差の由来です。

 

地域間の「雁行型発展」の実現...2030年代は内陸地域に期待

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中国は地域格差問題の解決を念頭に、不均衡な地域発展をバランスのとれた地域発展戦略へシフトしようとしてきました。2000年代に入ってから、中国政府はまず「西部大開発」計画を打ち出して、インフラ建設をはじめとする環境の整備や人材育成などに注力し始めます。

 

その後、2003年には、東北三省の振興による経済の活性化を図る「東北振興」戦略を、2006年には中部地域の開発と勃興を目指す「中部崛起」計画を明らかにしました。中部地域は、中国における交通の要衝という地理的優位性を活かした生産拠点や物流拠点としての発展が期待されました。

 

ここでは、これら地域発展戦略に対する評価はしません。それよりも特筆したいのは、地域発展戦略のもと、道路や空港、高速鉄道などのインフラ整備とともに、沿海地域から内陸へ産業の移転が進んでいることです。

 

東アジアの経済発展プロセスを説明するとき、よく「雁行型発展」と表現されます。第二次世界大戦以降の高度成長を遂げた日本から始まり、東アジア諸国が次々と発展していく様が空を飛ぶ雁の一群に似ていることから、このように呼ばれるようになりました。

 

中国国内の状況も同様です。沿海地域は、経済発展に伴って人件費の上昇や汚染問題、工業用地の限界などの課題を抱えていました。その課題解決のため、製造業を中心とする産業は他国ではなく、広い土地と豊富な安い労働力を擁する内陸地域へ移動し、その受け皿となった内陸地域の経済発展が進みます。

 

こうして先行している東部沿海地域の経済発展がほかの地域に広がっていきました。産業の拠点の移り変わりと人の移動で中国国内でも地域間の「雁行型発展」が実現しているのです。

 

「西部大開発」や「東北振興」、「中部崛起」のような地域発展戦略が発表されてから十数年の歳月が経ち、伸長した地域と萎縮した地域が明暗を分けたものの、沿海地域と内陸地域との地域格差が以前より縮小しているのが現状です(図表4)。

 

(注1) 工業企業利益は一定規模以上の工業企業(年商2,000万元以上の企業)の利益総額で、小売総 額は個人消費を表す社会消費財小売総額 (注2) 人口には現役軍人が含まれていないため、割合の合計は100%にはならない (出所)「中国統計摘要(2017年)(2022年)」を基に作成
[図表4]主要地域別経済データおよび全国に占める割合(2016年、2021年) (注1) 工業企業利益は一定規模以上の工業企業(年商2,000万元以上の企業)の利益総額で、小売総額は個人消費を表す社会消費財小売総額
(注2) 人口には現役軍人が含まれていないため、割合の合計は100%にはならない
(出所)「中国統計摘要(2017年)(2022年)」を基に作成

 

地域ごとに、GDPや人口、貿易総額などの経済指標における全国に占める割合を見ると、東部が低下し、中部と西部が上昇しています(図表中の下線部参照)。しかし一方では、東北部の衰退ぶりは一目瞭然です。GDPや工業企業利益はわずかながら増加していますが、人口減少(流出)と小売総額の減少は特に深刻です。

 

2000年代初期のデータと比較したほうが変化をより鮮明に映すと思われますが、2016年と2021年を比較するのには理由があります。それぞれ「第13次5ヵ年計画(2016-2020年)」と「第14次5ヵ年計画(2021-2025年)」の最初の年であり、経済が減速した直近5年間の変化を如実に表すと同時に、これからのトレンドを測るデータとなるからです。

 

要するに、内陸地域は今後、さらなる成長の可能性を秘めており、2030年代の中国ビジネスの中心になると言っても過言ではありません。

 

 

趙 瑋琳

株式会社伊藤忠総研 産業調査センター

主任研究員

 

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2030年中国ビジネスの未来地図

2030年中国ビジネスの未来地図

趙 瑋琳

東洋経済新報社

気鋭の研究者が中国の「新消費」・「新ブランド」・「新市場」を徹底解説! 日本人がまだ知らない一歩先の中国ビジネスとは? 「世界の工場」から「世界の市場」へと変貌した中国ですが、「常に変化し、唯一、変化していない…

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