消費をけん引する所得層の変容
一人当たりGDPで「高所得国」の仲間入り
消費規模は確実に拡大を続けています。個人消費の代表的な指標である社会消費財小売総額(小売売上高)は2001年に4.2兆元だったのですが、2021年には44.1兆元に達しており[図表1]、この20年で約10倍に増えました。
格差の問題が大きいものの、中国の平均所得水準を見てみると、一人当たりGDPは右肩上がりに増加し続けています。2019年に1万ドルを突破してから3年連続で1万ドルを超えており、2021年は1万2,554ドルとなりました[図表2]。
IMFの推定では、2022年の中国の一人当たりGDPは、世界193カ国・地域ランキングの68位です。世界順位は年々上昇していますが、世界第2位の経済大国として、所得水準の向上が今後も重要な課題になるでしょう。
しかし他方では、中国は世界銀行が定める高所得国の基準である一人当たり国民総所得(GNI)の1万2,695ドルに迫り、近いうちに高所得国の仲間入りを果たすと見られています。
「第14次5カ年計画・2035年長期目標」では、2035年までにGDPを倍増させるとともに、一人当たりGDPを3万〜4万ドルという中程度の先進国水準に引き上げるとの目標を掲げています。言うまでもありませんが、一人当たりGDPの増加は中国人の旺盛な消費意欲をさらに後押ししています。
中間所得層が8億人へ
中国ではここ十数年、富裕層が顕著に増加しています。
市場調査や消費者動向に関する情報を提供するドイツのStatista社のデータによると、2016年、中国の億万長者(資産総額10億ドル以上)の数は568人で、この年、初めて米国を超えました。その後も増え続け、2021年には1000人を突破しています。
そして今後、より期待できるのは、消費をけん引する中間所得層のさらなる拡大です。一人当たりGDPの増加に加え、習近平政権は所得格差の是正を重んじる「共同富裕」を提唱し、中間所得層を拡大させていくことを目標にしています。
中国国家統計局は、典型的な3人家族で年間所得が10万元〜50万元の、不動産や自動車の購入、旅行などをする経済力のある層を「中等収入群体(中間所得層)」と定義しています。この基準に沿えば、中国は現在、総人口の3割に相当する約4億人の中間所得層を抱えているとの計算になります。中国国内のシンクタンクや有識者の多くは、2035年までにGDPが倍増するとともに、中間所得層が現在の4億人から8億人になるとの見通しを発表しています。
そうなると、中間所得層が総人口の約6割に相当することになり、日本をはじめとする多くの先進国の所得層分布に近づきます。大学や専門学校の卒業生、何らかのスキルを持つ職人、出稼ぎ労働者は中間所得層になり得る有力な対象者で、中間所得層予備軍として考えられるようです。
中国商務省副大臣の銭克明氏は2020年末に行われた「2020─2021年中国経済年会」で、「14億人を擁する中国は巨大市場であり、大きな成長ポテンシャルを持つ。これからの15年間で、中間所得層は8億人に達する見込みで、消費昇級(消費のレベルアップ)が続き、電子商取引(EC)や都市化など、消費をけん引する要素が顕在し、消費の見通しは非常に明るい」と発言しています。
趙 瑋琳
株式会社伊藤忠総研 産業調査センター
主任研究員
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