1―商業施設はコロナ禍の不確実性に加え、少子高齢化とEC市場拡大が逆風に
日本の小売業を取り巻く環境は厳しさを増している。新型コロナウイルス感染拡大により、小売業販売額は2020年に前年比▲3.2%と、1998年や2002年以来の減少率を記録した(図表1)1。
2021年は+1.9%となり、2019年対比で▲1.4%の水準まで回復したものの、長期的な視点で見れば、バブル崩壊により減少に転じた1993年以降、小売業販売額は明確な成長軌道を描けずにいる。今後も、少子高齢化とEC(電子商取引)市場拡大の影響による商業施設の売上環境への下押し圧力が継続もしくは強まると予想される。
コロナ禍では、消費行動が大きく変わった。具体的には、消費構造の変化として「コト消費からモノ消費へのシフト」、消費チャネルの変化として「ECシフトの加速」が挙げられる。これらの変化には、ポストコロナにおいて、元に戻るものと、元には戻らない不可逆的なものが含まれており、今後の商業施設の売上高に影響を及ぼすことが予想される。
本稿では、まず、少子化が商業施設売上高に及ぼす影響を整理する。次に、コロナ禍における「コト消費からモノ消費へのシフト」、「ECシフトの加速」について確認する。最後に、これらの影響を踏まえ、2040年までの商業施設売上高を複数のシナリオのもとシミュレーションすることで、今後の商業施設の売上環境の変化について考察する2。
1 1998年は金融危機や前年の消費増税の影響で前年比▲5.5%、2002年はITバブル崩壊などにより▲3.3%となった。
2 2017年に(1)少子高齢化、(2)EC市場拡大、の商業施設売上高への影響を分析したレポートを公表しており、本稿はそれをアップデートしたものである。
佐久間誠(2017)「商業施設売上高の長期予測~少子高齢化と電子商取引市場拡大が商業施設売上高に及ぼす影響~」(基礎研レポート、ニッセイ基礎研究所、2017年8月31日)