3―コロナ禍における消費構造の変化:コト消費からモノ消費へのシフトが進む
コロナ禍における消費構造の変化の1つに、「コト消費からモノ消費へのシフト」が挙げられる。総務省の「家計調査」によると、消費支出に占める財消費の割合は2019年の57.6%から2020年の61.3%へ+3.7%ポイント上昇した(図表7)3,4。
2021年は60.3%(前年比▲1.0%ポイント)に低下したものの、コロナ以前と比べて高い水準である。
3 消費支出はこづかい、交際費、仕送り金を除く。
4 二人以上の世帯。また、本稿では特段の断りがない限り、二人以上を対象とする。
1|品目別にみた消費支出額: 一部のモノ消費では反動減
「コト消費からモノ消費へのシフト」は多くの品目で続いているが、一部のモノ消費では反動減も見られる。消費支出額を品目別に確認すると、コト消費は「旅行関連サービス」が2020年に前年比▲64.9%、2021年に▲9.6%、「外食」が2020年に▲24.7%、2021年に▲2.2%と、低迷が続く(図表8)。
一方、「外食」の代替先としてモノ消費の「食料」が増加し、2020年に+6.9%、2021年に▲0.7%となった。また、在宅勤務の普及などにより自宅での滞在時間が増加したことで支出額を伸ばした「家電」は2020年に+11.7%、2021年に▲3.9%、「家具・寝具」は2020年に+7.7%、2021年に▲9.6%となった。
こうした在宅環境改善のための耐久財消費への支出は2020年で概ね一巡したと言える。
2|年齢別にみた消費支出額: コト消費への回帰の動きも
2021年に入っても、高年層では「コト消費からモノ消費へのシフト」が続いているものの、若年層と中年層ではモノ消費からコト消費へ回帰する動きがみられる。
年齢別にモノ消費割合の推移を確認すると、「65~69歳」が2019年の63.3%から2020年に69.3%に上昇し、2021年でも69.2%と高水準を維持するなど、65歳以上の高年層では、2020年に上昇した後も高止まりしている(図表9)5,6。
これに対して、「34歳以下」のモノ消費割合は2019年に63.8%、2020年に69.5%と上昇したものの、2021年に67.7%とやや低下するなど、64歳以下の若年層・中年層では、2020年に上昇したモノ消費割合が2021年には低下している。
コロナ禍では「コト消費からモノ消費へのシフト」が進展したが、その変化の内容は全ての年齢層で一律ではない。2020年のコト消費とモノ消費の増減率をみると、「34歳以下」ではコト消費が▲13.9%、モノ消費が+11.3%となったように、若年層・中年層はコト消費をモノ消費で代替したことが分かる(図表10)。
一方、「85歳以上」(コト消費▲23.7%、モノ消費▲3.2%)はいずれの消費も減少しているように、高年層はコト消費の大幅減少が結果的にモノ消費割合の上昇をもたらした。
2021年に入り、若年層・中年層では、「コト消費からモノ消費へのシフト」を巻き戻す動きがみられる。例えば、「34歳以下」(コト消費+6.1%、モノ消費▲2.3%)や「35~39歳」(コト消費+3.4%、モノ消費▲3.8%)では、モノ消費からコト消費への回帰が進んでいる(図表11)。
一方、65歳以上の高年層では、「80~84歳」を除いて、モノ消費とコト消費をともに減らす動きが続いている。
このように、コロナ禍では、「コト消費からモノ消費へのシフト」が進んだが、2021年には一部に揺り戻しの動きが見られる。また、品目や年齢別にみると、その変化の内容は決して一律ではない。
品目別では、「外食」の代替先として「食料」の支出額が増加した一方、在宅環境改善のための耐久財需要は一巡している。また、年齢別では、コロナ禍の収束が見通せないなかでも、若年層と中年層ではモノ消費からコト消費への回帰が見られる。
これに対して、高年層ではそもそも「コト消費からモノ消費へシフト」したわけではなく、外出を自粛しコト消費とモノ消費をともに減らしている。コロナ禍が収束すれば、若年層と中年層ではコト消費への回帰が加速すること、高年層でもコト消費の回復が期待されるが、コロナ以前の水準に戻るかどうかについて、現時点で判断することは難しい。
5 モノ消費割合は、消費支出を品目ごとにモノ消費とコト消費に分類することで計算した。
6 世帯主の年齢。また、本稿では特段の断りがない限り、「年齢別」は世帯主の年齢別を指す。