(写真はイメージです/PIXTA)

商業施設には、コロナ禍による不確実性に加え、少子高齢化とEC市場の拡大などの逆風が吹いています。本稿ではニッセイ基礎研究所の佐久間誠氏が、消費構造や消費チャネルの変化にふれながら、長期的な商業施設の売上高見通しについて解説します。

5―商業施設の売上環境のシミュレーション手法とシナリオ設定

続いて以下では、これまでの考察をベースに、2040年までの商業施設売上高を複数のシナリオのもとシミュレーションすることで、今後の商業施設の売上環境の変化について考察する。

 

1シミュレーション手法
まず、年齢毎に見た各世帯の可処分所得と消費性向、品目別消費割合は将来時点で一定と仮定した。年齢毎の可処分所得に、消費性向と品目別消費割合を乗じることで、年齢毎の品目別支出が求まる。この年齢毎の品目別支出に、国立社会保障・人口問題研究所による年齢毎世帯数の将来推計を乗じることで、日本全体の物販・外食・サービス支出を求めた。

 

これは日本の商業施設の潜在的な売上規模を示す。そして、日本全体の物販・外食・サービス支出からECによる購入を除いたものを、日本全体の商業施設売上高として推計した(図表19)。

 

 

2|コロナ禍による消費行動の変容に関するシナリオ設定
コロナ禍による消費行動の変容が感染収束後も定着するかどうかは、不確実性が大きいため、シナリオを設定する。コロナ禍による消費行動の変容には、消費構造の変化である「コト消費からモノ消費へのシフト」と、消費チャネルの変化である「ECシフトの加速」がある。これらの変化は、2020年にピークを迎えた可能性がある。

 

そのため、消費構造の変化に関しては、品目別支出についてコロナ前の2019年に戻ることを想定した「コロナ前回帰シナリオ」と2021年のウィズコロナの状態が定着する「ニューノーマルシナリオ」の2つのシナリオを設定する。

 

ポストコロナにおける消費構造は依然不透明だが、恐らくこの2つのシナリオの間に落ち着くことが予想される。また、消費チャネルの変化に関しても、EC化率についてコロナ前回帰シナリオとニューノーマルシナリオの2つのシナリオを設定する。

 

したがって、品目別支出の2シナリオとEC化率の2シナリオを組み合わせた4つのシナリオのもと、商業施設の売上環境の変化を試算する(図表20)。

 

 

 

(1)品目別支出のシナリオ
コロナ前回帰シナリオでは、2021年の年齢毎の品目別支出を起点として、2019年水準に回帰した後、一定で推移する。つまり、コロナ禍で進んだコト消費からモノ消費へのシフトが、完全にコロナ前に戻る想定である。



ニューノーマルシナリオでは、年齢毎の品目別支出が2021年水準から一定で推移する。つまり、家計の消費構造が現在のウィズコロナの状況から変化せず、将来の物販・外食・サービス支出は人口動態によってのみ変動することを意味する。



(2)EC化率のシナリオ
コロナ前回帰シナリオでは、2019年までの過去10年と同じペースで拡大する。これは、ECシフトの加速が2020年で終了し、EC拡大ペースはコロナ以前に戻ることを意味する。当シナリオでのEC化率は2020年の8.1%から、2030年に12.9%、2040年に17.6%となる(図表21)。

ニューノーマルシナリオでは、コロナ前回帰シナリオをベースに食料品と高年層は2021年のEC拡大ペースを維持すると仮定した。2020年に加速したECシフトは、2021年に入りコロナ前のペースまで鈍化している。しかし、品目別に見ると食料品、年齢別に見ると高年層は、2021年においても2019年を上回る拡大ペースを維持しているため、これらの変化をシナリオに反映する。当シナリオでのEC化率は2020年の8.1%から、2030年に15.6%、2040年に23.2%となる(図表21)。

 

 
次ページ2040年までの商業施設の売上環境のシミュレーション結果

※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年7月21日に公開したレポートを転載したものです。

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