不動産業者が未完成の物件をミニチュア資料やモデルルーム展示で販売するリスク
ドル建てで発行している社債が多くある。2025年償還の社債発行価格が1米ドルから45セントまで、つまり半値以下まで落ちている。米国の格付け機関のS&P500やフィッチは恒大集団の社債の格付けをほぼジャンク債並みに落としている。2021年12月17日にはS&Pは「SD」に、フィッチは「RD」へといった具合である。
ということは、もうそろそろデフォルトしてもおかしくはない。彼らはそんな評価を下していたのである。
これは恒大集団に限らず、また中国に限らず、どの国においても最終的には、不動産バブルは必ず弾けるということをわれわれに教えてくれている。弾けない不動産バブルというものは歴史上なかったわけだから。
中国の住宅セクターにおける過剰投資は、すでに十数年前から危険視されていた。そもそも住宅があり余っていて売れない。2割以上が空室で、「鬼城(ゴーストタウン)」という中国語も流行ったほどだった。
さらにこの手の不動産デベロッパーは、(日本やトルコにも同様のデベロッパーがあるのだが)、まだ住宅が完成していないプロジェクト段階でその物件を売却してしまう。中国でもよくあるのだが、デベロッパーが完成予定のミニチュアモデルやモデルルームを展示して、予約説明会の段階で物件を売り切ってしまうのである。
しかしバブルが弾けて不動産会社の資金繰りが危うくなれば、物件が完成せず、購入者は多大な損失を被るケースもあるのだ。
こうした問題も孕んでいることから事態は深刻なのだが、恒大集団が実際にどれくらいの負債を抱えているのかがわからなかった。恒大集団側は、払うべき負債(金利)は11兆円程度と示しているのだが、市場側はもっと多いはずだと捉えていたようだ。
恒大集団は大きい企業だから目立っているだけで、これは氷山の一角にすぎない。同じような問題に直面している中国企業は山ほどある。
ちなみに2021年9月16日の香港市場は10ヵ月ぶりの年初来安値を付けたのだが、その主因は恒大集団の主要子会社の社債取引が同日に停止され、不動産セクターへの警戒感から売りが広がったためだ。
中国の不動産バブルはとっくに弾けている
瀕死の恒大集団は、創業者の自宅豪邸をオリックスの抵当に入れたり、プライベートジェットや子会社を売却するなどしてデフォルトを先延ばしにしていた。おそらく許家印会長はそうしている間に奇跡が起きると思っていたのだろう。
しかし、恒大集団のデフォルトは避けられないものだろう。問題は、見えている借金以上に、恒大集団が貸借対照表計上されていないオフバランスでの借金を抱えていることである。何といっても中国でナンバー2のデベロッパーなので、実際に延命が断たれたときの影響は計り知れない。
おそらく中国共産党政府が一番懸念しているのは、完成前の物件に対して頭金を入れたり、全額を入れてすでに家を購入した人たちへのケアだ。そういう人が150万人ほどいると言われている。
そうしたオーナーたちの物件の建設工事は、もう止まっている。つまり、このままでは家が完成する見込みはまずない。そうなると、中国政府は何とか別会社に引き継がせて、個人の住宅だけでも完成させて引き渡すというようなことをする可能性もある。
ただし、その他のショッピングモール建設などのプロジェクトに参加している企業への支払いについては、確実に焦げつくだろう。加えて、国外の投資家が買った恒大集団のドル建て社債約2兆円も焦げつく。
ちなみに、日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も約100億円買っていた。まあ、100億円程度であればたいしたダメージではない。ポイントはGPIFでさえ恒大集団の社債を持っていたという事実で、それほど恒大集団は大きな企業であったということだろう。
あまり指摘する人がいないのが不思議なのだが、経営不振なのは恒大集団だけではない。2021年秋以降、中国のデベロッパーやゼネコンが次々倒れていた。中国メディアが騒がないだけで、毎日のように静かに消えているのだ。無論いまもその状況は続いている。
中国メディアは騒いでいないが、中国の不動産バブルはとっくに弾けている。中国は民主国家ではないから、自由に報道できない。ご存じのとおり、中国にジャーナリズムは存在しない。中国メディアとは、基本的に中国共産党の宣伝機関と捉えるべきである。
※2021年11月、中国恒大集団はドル建て債の利払いに困窮し、デフォルトしました。