「投資家とは流動性を提供して、利益を得るが、絶えずクラッシュのリスクに晒される存在」
負の相関関係にあるVIX指数とS&P500
株式市場でもっとも注目される大きな指数は、「工業株400、運輸株20、公共株40、金融株40」の各指標で構成され、ニューヨーク株式市場時価総額の約4分の3をカバーする「S&P500」である。
その「S&P500」の指数ボラティリティを示すものが、S&Pの1ヵ月のオプション価格から計算するVIX指数だ。VIX指数の別名はボラティリティ指数、あるいは恐怖指数とも言われる。相場が暴落すると、VIX指数が高まる、もしくはVIX指数が高まると、相場が暴落するという仕組みになっている。つまり、VIX指数とS&P500のパフォーマンスは〝負〟の相関関係にあるわけだ。
本来であれば流動性を提供している投資家がリスクを取っているわけである。流動性を提供して、その代わりに利益を得るけれども、絶えずクラッシュのリスクに晒されなければならない。
ただし、いまの世の中においては中央銀行が〝最終的〟な流動性供給者になっている。つまり、何かが起こるたびに世界各国の主要な中央銀行がそこに入って、相場を支える役割を担っているわけだ。
リクイディティ・プロバイダー(流動性供給者)は流動性を供給している代わりに、実質的にはボラティリティをショートしている。つまり、売っている。ボラティリティを低く抑える。いま最終的にそれをやっているのが中央銀行ということになる。なぜならば、中央銀行が一番大きな資金供給者であるからだ。
これが世界的に大きなキャリートレードになって、最終的にはお金が全部米国株に集まって、S&P500がどんどん上昇していく。何かが起こるたびに米国株が買われ、ちょっとでも下がれば買いにくる人がいるわけである。
その結果、いま何が起きているかというと、結局、大きなファンドはVIX指数を売っているわけである。
コインの表と裏の関係にある「VIX指数を売っている人たち」と「ロングポジションにしている人たち」
ちょっと専門的な話になるが、VIX指数には、その時点の値の「スポット」と、先の日程における値の「インプライド(暗示)」とがある。当然ながら先の日程のVIX指数のほうが不確定なので、現在のスポット価格よりも1ヵ月後の価格のインプライド価格のほうが、高い。
したがって、VIX指数の先物、たとえば1ヵ月先のものを空売りして、何も起きなければ儲かることになる。スポット価格のほうがインプライド価格より低いからだ。つまり、期限が近づけば近づくほど、インプライド価格がスポット価格に近づくので、先物の価格が落ちてくるわけである。何も起きなければ、VIXを売ることは非常にプロフィッタブル(利益大)なのだ。
実は2018年の2月まで、こういう商品がたくさんあった。いわゆるVIXをショートする商品、もしくはあらゆるボラティリティをショートする商品だ。ETN(指数連動証券)の一種で、VIX指数に逆連動するタイプのファンドが特に多くあった。日本では、「NEXTNOTESS&P500VIXインバースETN」が知られていた。
VIX指数を売っている人たち、もしくは流動性を供給している人たちの利益は、ちょっとずつちょっとずつ上がっていく。急には上がらない。そして何かショックを受けるとガクンと損をする。またそこに中央銀行が入ってくると、再びちょっとずつちょっとずつ上がっていく。またショックが起きてガクンと下がる。のこぎりの刃形の下落といえる。
ひるがえって、VIX指数をロングポジションにしている人、もしくはヘッジをかけている人は、その逆となる。これは米国の『TheBigShort』(邦題『マネー・ショート華麗なる大逆転』)という映画でも有名だったが、ちょっとずつお金がなくなっていく。クラッシュが起きると儲かるという仕組みなので、VIXショートポジションとは逆ののこぎりの刃形の状況となる。