1本の大木が焦げつき、森が全焼する可能性も
さらに中国の場合、不動産投資がGDPの14%を創出、土木建設業関連分野を含めると約30%にもなるのが問題だ。
やはりこういう歪んだビジネスモデルはどこかで行き詰まるものだ。トルコでも行き詰まったし、他の新興国でも行き詰まったし、中国でも当然ながら行き詰まることが予測でき、実際にいま行き詰まっている。
もう一つ、不動産関連企業は不動産物件を山ほど保有しているから、借金返済や関係会社に対する支払いのため、保有物件の売却を迫られる。
しかし恒大集団ほどの巨大企業が膨大な保有物件を売却しようと動けば、不動産市場全体の相場価格が大幅に下がるのは必至だ。恒大集団の清算で中国の不動産バブル崩壊が終わるのであればいいが、そうはいかない。これだけ焦げついて不動産市場がいったん冷えてしまったら、中国の不動産市場はこれから30年動かないかもしれない。
加速する高齢化が不動産業界を追い込む第2のリスクに
もう一つ深刻なのは、今回の中国の不動産バブル崩壊がデモグラフィクス(人口動態)が悪化しているなかで起きたことである。
これから中国社会は猛烈な勢いで高齢化していく。2021年の出生数は1,062万人で、建国以来もっとも少ない。これまで投資も兼ねて住宅を目一杯つくってきたけれど、ほとんどが空室。そのことも中国の不動産市場を冷やしている理由である。
一方で、不動産は一番裏金が動くビジネスであることから、汚職官僚がお金をもらいやすい。特に中国の場合、官僚がすべての建設許可を出していた。
トルコもだいたい、収賄側のボスが総利益の2割をもらうという話だった。いまバブル崩壊の真っ最中の中国の場合、今後長期間の痛みに苦しむことになる。
これらを勘案すると、中国はこれからかなり大変な時代に、荒れる時代に突入したのではないか。
まだまだ中国の不動産バブル崩壊は始まったばかりなので、これからはいままで調子に乗ってやってきた莫大なツケを払わされることになるのだろう。結局不動産バブルは社会に何のメリットももたらさない。
ただ中国の不動産バブル崩壊を俯瞰してみると、不景気な中国経済からお金が抜けて日本に向かいやすい環境ができるわけで、日本には中長期で追い風になるだろう。
注)2021年11月、恒大集団はデフォルトしました。また、この記事を書くにあたって参考とした『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)は、2022年3月に発売された物であり、現状とは多少異なる点がある可能性があることをご理解ください。
エミン・ユルマズ
複眼経済塾取締役・塾頭
著者画像撮影 Rikimaru Hotta