EC市場で圧倒的な強さを誇るAmazon。その勢いはとどまらずドローンや自動運転事業における物流や在庫管理のアップデートを行い、事業競争力を強化しています。EC市場におけるAmazonの優位性構築の手法をみたうえで、異業種であるモビリティ産業への参入戦略をみていきます。
高級スーパーを買収…ECとの融合で購買体験を強化
アマゾンの優位を決定付けたもう一つのイベントとされるのが、高級志向のスーパーマーケットであるホールフーズマーケットを17年に137億ドルで買収したことである。ハイブランドであるホールフーズの買収効果は、リアルの消費者の行動とオンライン上の行動を結び付けることで、相互の情報を活用し、購買体験をよりシームレスなものにできると期待された。ある調査では、約81%もの人がホールフーズ買収でリアルの体験がより良くなることを期待していると答えたほどだ。
当初は、ホールフーズの価格帯が通常の大手小売りよりも高いために、一般層を対象にECを広げてきたアマゾンとの間で必ずしも情報の相互利用がフィットしないのではという声も聞かれたが、アマゾンはいくつかの方法で対応している。
1つ目は、ホールフーズの店舗に従来より安価なキャンペーン商品を置くことで来店の誘導を図った点である。実際にバナナが当初のホールフーズの価格帯よりかなり安く販売された日があり、一気に売り切れになって悔しい思いをしたのを覚えている。
2つ目は、ホールフーズの実店舗でアマゾン会員に対して割引をすることで、オンライン会員を実店舗へ誘導する方法である。これらの方策は一定の効果を表し、過去5年間でホールフーズはアマゾンによる買収当時の約460店舗から513店舗へと50店舗程度増えている(22年10月10日時点)。
また、アマゾンは価格帯が異なる部分について、ホールフーズとは異なる一般消費財の商品を扱う業態として「アマゾンフレッシュ」のブランドでレジレスのスーパーを展開している。アマゾンフレッシュは44店舗(22年9月21日現在)まで拡大しており、ホールフーズの運営により得たオンラインとリアルを結ぶノウハウが活用されている。
ホールフーズの買収には、副次的な効果があったとされる。調査会社によると、全購買者の78%が店頭での買い物や店舗脇での注文の受け取りなど、実店舗のある食料品店を訪れることを好むと回答しており、ほとんどの食料品店利用者は実店舗を持つ小売業者やオンラインブランドを重視し続けていることが分かってきている。
アマゾンはホールフーズの買収からリアルとECの相乗効果を理解し、アマゾンフレッシュにおいてもリアル店舗を充実させていると考えられる。
《最新のDX動向・人気記事・セミナー情報をお届け!》
≫≫≫DXナビ メルマガ登録はこちら
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
シリコンバレー事務所パートナー、取締役COO/Deloitte Private Asia Pacific Emerging Growth Lead Partner
2007年、有限責任監査法人デロイト トーマツ入所、公認会計士としてIPOおよびM&Aなどの各種業務に従事。2010年、社内ベンチャーとしてスタートアップ支援などを行うデロイト トーマツ ベンチャーサポートを2人で第2創業。15年からシリコンバレー事務所を立ち上げ、現地で200社超が参画する新規事業開発コミュニティー「SUKIYAKI」を創設。デロイトの成長企業支援のアジア地域リードパートナーに就任。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載次世代の自動車産業…脱炭素・デジタル化時代に日本が勝つには?
パナソニック ホールディングス株式会社
モビリティ事業戦略室 部長
2003年、松下電器産業(現 パナソニック ホールディングス)に入社。民生ビデオカメラのソフトウエア開発や商品企画に従事。
13年からシリコンバレーのオートモーティブ拠点を立ち上げ、5年半、自動車メーカーとの新規事業開発やモビリティ領域のスタートアップ投資に携わる。19年、帰国後はモビリティ・スマートシティ領域での新規事業責任者として事業創出や地方創生を目指す。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載次世代の自動車産業…脱炭素・デジタル化時代に日本が勝つには?
経済産業省
生物化学産業課(バイオ課)課長
1999年、通商産業省(現 経済産業省)入省後、IT、サイバーセキュリティー、バイオテクノロジー、再生医療、ヘルスケアなどのイノベーション産業推進を担当。
2016年から4年間、JETRO(日本貿易振興機構)サンフランシスコ次長、World Economic Forum第4次産業革命センターフェローとして、日系企業のシリコンバレー進出やグローバルコミュニティーへの参画を推進。22年7月より現職。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載次世代の自動車産業…脱炭素・デジタル化時代に日本が勝つには?