(※写真はイメージです/PIXTA)

現在、さまざまな自動車メーカーが自動運転の開発を進めています。しかし、莫大な開発資金の必要性により、多くの企業で事業継続が危ぶまれているのが現状です。そのようななか、Googleの自動運転車開発部門が分社化して誕生したウェイモは、思い描く未来に向けて緻密な構想をし、着々と事業を進めているといいます。みていきましょう。

グーグルも狙う「ロボタクシー」という新市場

グーグルは、09年に自動運転車プロジェクトを開始し、他の自動運転車の開発企業よりも先んじて15年にカリフォルニア州マウンテンビュー市内の公道で自動運転のテスト走行を行った。16年には親会社のアルファベット傘下に自動運転車開発企業としてウェイモを設立している。公道テストを始めた15年当時からアプローチが既存の自動車メーカーとは異なり、自動運転のレベル5、完全自動運転ありきで参入しているのが特徴的である。

 

そんなグーグルが目指す1つ目のビジネスは、自動運転システムの提供だろう。スマートフォンでの成功体験を生かしながら、ロボタクシー時代を見据えて自動車産業に参入を目指している。

 

シリコンバレーD-Labの第1弾リポート(※)を発表した17年当時、すでにウェイモは公道テストで自動運転車の総走行距離が360万㎞、コンピューター上でのシミュレーションでは16億㎞を走行しており、他社を圧倒していた。

 

※ 2016年ごろから、CASE(コネクテッド:Connected、自動化:Autonomous、シェアリング:Shared、電動化:Electric)の4つの破壊的な潮流が自動車産業を襲ったことを日本にいち早く伝えたリポート

 

当時は自動運転に懐疑的な人が多かった中で、シリコンバレーでは当たり前のように街中の公道でウェイモの車両を見かけ、自動運転車が走る未来を感じさせた。

 

雨や動物、道路環境など、様々なユースケースの走行データをエンジニアがAIに学習させることで競争力を確立していった。安全性の高い自動運転のOSを構築し、スマートフォンにおけるアンドロイドOSと同様に、将来は自動車メーカーに自動運転OSを実装してもらって世界中に自動運転車を普及させる戦略である。

 

どの企業も開発に係る資金繰りで苦戦

数年前の自動運転バブル期に各社から発表された野心的なロボタクシーの実現時期は過ぎている。あまた生まれた自動運転スタートアップは、安全性技術の確立の遅れ、膨大な技術開発費用に耐えかね、撤退、倒産、身売りなどを続けている。その中で、圧倒的なテスト走行を行ってきたウェイモは着々と開発を続けている。自動運転では開発資金が課題となることが多い。

 

「すぐ先の未来」と思われた当時から、実際に蓋を開けてみると、天候などの環境や障害物、規制など安全確保のために越えなければならない壁が非常に高く、何百億ドルという膨大な研究費用がかかる。

 

例えば、当初期待されたグーグルの自動運転車の元開発責任者、クリス・アームソンが共同設立したオーロライノベーションは、21年から85%以上の損失を出し、現在30億ドル以下の評価額しかない状況だ。22年9月、クリス・アームソンから流出したメモには、オーロライノベーションのキャッシュフローにおける苦労が要約されており、より大きな企業に売り払わなければならないかもしれないと示唆されている。

 

残念ながらアップルが買収したDrive.ai(ドライブai)、クルーズが買収したVoyage(ボヤージュ)、アマゾン傘下のZoox(ズークス)、ウーバーの自動運転部門など、業界で有望な取り組みの多くが近年、同じ運命をたどっているのが実態だ。

 

このような状況の中、ウェイモは20年3月に初の外部投資ラウンド(22億5000万ドル、数カ月後に7億ドル追加)を受け、21年にも2回目の外部資金調達ラウンドで25億ドルを調達したと発表した。直近の資金調達ラウンドでは、クルーズとほぼ同じ300億ドルという推定評価額となっている。

 

ウェイモのブログでは、「この資金を自動運転プラットフォームの継続的な成長と、チームの成長に充てる」と述べている。外部調達を有効に活用して多額の開発資金に対応しようとしている実態がよく分かる。ウェイモは資金をやりくりしながら開発を続け、18年にはアリゾナ州フェニックスで世界初のロボタクシーサービス「Waymo One(ウェイモワン)」を一部の顧客を対象に開始した。

 

画像/ Waymo
[画像1]世界初のロボタクシーサービス「Waymo One」 画像/ Waymo

 

着々と進むウェイモのロボタクシー事業

当初はセーフティードライバー同乗で実施していたが、19年にはドライバーレスのサービスを試行的に導入し、2020年には対象を一般顧客に拡大した。22年にはフェニックスのダウンタウンで安全オペレーターがハンドルを握らないドライバーレス自動運転を拡大し、空港への乗り入れを開始することも発表している。

 

また、サンフランシスコでは、カリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)がクルーズとウェイモに対し、セーフティードライバーがいる状態で自動運転車の乗客サービスを可能にする許可を22年2月に出し、有償でのライドシェアサービスの提供も許可した。それを受けて22年8月からジャガーのEVを使い、セーフティードライバーを乗せた自動運転車をサンフランシスコ在住の限られた人に無料で提供し始めている。

 

そして22年11月中旬にCPUCはウェイモに対して、セーフティードライバーなしで試験的に乗客を運ぶ許可を出した。まだ、フェニックスのように一般客には公開されていないが、着々と自動運転に向かって前進をしている。

 

前述したカリフォルニア州車両管理局(DMV)が発表したリポートによると、ウェイモは21年にカリフォルニア州の公道で230万マイルの自動運転を行っており、2位のクルーズの約90万マイルを大きく上回っている。

 

なお、2023年1月末にセーフティドライバー無しでのDriveをサンフランシスコ全域に拡張することを発表している。Waymoはこれまでにセーフティドライバー無しで、100万マイルの走行を達成しており、この中で、100万以上の左折、230万の信号を通過し、73万2000人のサイクリストと遭遇しているという。3分の1以上の走行は、時速36〜45マイルで、高速道路での運行であったとのこと。この数値もまた、非常に大きいものであることが分かる。

 

出所
[画像2]WaymoのCEOディミトリ・ドルゴフ氏が投稿したTwitterセーフティドライバー無しでの運転をサンフランシスコ全域に拡張し、今後高速道路への拡張を進めていることを説明したドルゴフ氏。動画は自動運転車に乗車中の様子。
(画像:ディミトリ・ドルゴフTwitterより)

 

車体自体は外注、自社ソフトウェアとの連携…ウェイモのビジネスモデル

ここで自動運転やロボタクシーに関するウェイモのビジネスモデルを考えてみる。ここでも大きくスマートフォンビジネスでの戦い方が参考になる。もともとグーグルがモバイル機器向けにLinuxカーネルやオープンソースソフトウエアベースで開発したのがアンドロイドOSである。

 

アンドロイドOSはスマートフォンやタブレットなどのタッチスクリーンモバイル端末向けにデザインされ、世界中に普及している。開発環境がオープンであり、誰でもアプリを自由に開発し、世の中にローンチできるため、非常に多くのアプリサービスや開発エンジニアコミュニティーを抱えている。

 

アップルが自社ハードウエアに自社のiOSを載せて顧客体験を最適化してきた一方で、グーグルはハードウエアは日中韓などのスマートフォン製造メーカーに任せ(後に自社設計のスマートフォンも開発)、アンドロイドOSを起点としたソフトウエアで利益を生み出すビジネスモデルで成功してきた。基本的には生産工場や材料などのアセットを持たないため、OSの展開効率の良さは圧倒的といえる。

 

ウェイモも、自動運転ソフトウエアの開発に特化し、GM(ゼネラルモーターズ)などの自動車メーカーとは違って車体自体を製造していない。すでに700台以上の自動運転車を保有しているが、その車種はジャガーの「I-PACE EV」や、クライスラーの「Pacifica Hybridミニバン」、そしてクラス8トラックなど様々である。

 

こうした自動車メーカーの協力を得て、数年後には米国でEVロボタクシーの専用車の導入を検討している。ハンドルやブレーキペダルをなくして頭上や足元空間が広い車内で、リクライニングシートを装備し、手の届く範囲にスクリーンや充電器を付けるなど、車内で利用するアプリケーションに適した体験をデザインする。

 

将来、様々な企業が自動運転やロボタクシーの提供に乗り出す際に、ウェイモはそれらの企業に自動運転技術・OSを幅広く提供していく可能性がある。

 

グーグルは、2030年までに自動運転が世界の60%まで拡大し、ロボタクシーの市場規模が最大2兆8000億ドルに成長すると予測し、そのうち約1140億ドルの売り上げを自社で見込んでいる。スマートフォンと同様に肝となる自動運転オペレーティングシステムをロボタクシーへ組み込み、普及させることで、圧倒的な収益を獲得しようと狙っている。

 

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※本連載は、木村将之氏、森俊彦氏、下田裕和氏の共著『モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質』(日経BP)より一部を抜粋・再編集したものです。

モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質

モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質

木村 将之、森 俊彦、下田 裕和

日経BP

2030年の自動車産業を占う新キーワード「モビリティX」――。 「100年に1度」といわれる大変革期にある自動車産業は、単なるデジタル化や脱炭素化を目指した「トランスフォーメーション(DX、SX)」ではもう勝てない。今後…

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