ロボタクシーと家の体験を融合
アマゾンが人の移動の面でも急激に存在感を高めたのが、前述した2020年のズークス買収からである。14年に創業されたズークスはハードウエアも含めてゼロから自動運転車を開発するアプローチを取っている。開発当初より、ズークスの車は自動運転時代の顧客の体験にこだわってデザインされていた。フロントからバックまで完全に対称で、車の向きを変えずに乗客を前方、または後方に乗せていくことができる設計が話題となった。
現在もこのデザインを踏襲しており、車両の両側面の大型自動ドアがスライド式で開くため、サンルームと同じくらい入りやすく、車両の内部はまさに馬車のようにベンチ型シートが2つ向かい合っている。乗客2人が横に並ぶのではなく、向き合って座るつくりだ。
個々の乗客が音楽を選び、空調を調整できるよう座席自体にスクリーンが組み込まれており、シートは3Dプリンターで織られた無駄のない繊維でくるまれている。
ズークスの工業デザインチームリーダーのクリス・ストフェルは、「朝は静かな車で通勤したいかもしれない。日中の用事は別のムードで、夜には遊びに出かけたいかもしれず、それはまた異なるムードになる。この車は、そのすべてを実現できる」と語り、様々な体験に合わせて車内の空間が活用できることを想定している。
友人同士で夜に遊びに出かけるときに、他人とシェアするのではなく、貸し切りでズークスを予約するかもしれないと想像している。車内の天井に組み込まれた600個のLEDライトは、自由にコントロールできる「パーティーモード」にも使える可能性もあるという(※2)。
※2:MARK WILSON, Inside the design of Zoox, Amazon’s quirky, self-driving car, FAST COMPANY, May 2022などより作成
このように自動運転を前提とした車内体験をさらに高められるようにアマゾンは着々と技術の蓄積を行っているように思える。特に存在感を発揮しているのが、アレクサを活用した車での体験の向上である。
18年に発表された取り組みでは、カーオーディオからの音楽、エアコンの音、運転中の騒音などが騒々しい車の中でも、ユーザーの声にアレクサがスムーズに応答し、音楽をストリーミング再生したり、ニュースやオーディオブックを読み聞かせたり、電話をかける機能も提供されている。ハンズフリーで様々な体験を提供する機能は当時、画期的なものとされた。
さらにアマゾンは18年ごろからクラウドサービスの「AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)」を活用したコネクテッドカーソリューションを本格的に開発している。アマゾンは22年のCESで、大手自動車メーカーであるステランティスとの包括的な提携を発表した。ここでは、車と家の体験を統合することが示唆されている。
アレクサの音声対応をベースにしながら、AWSと密に連携したエンターテインメント、ナビゲーション、車両メンテナンス、ECマーケットプレイス、決済サービスなどで、パーソナライズされた直感的な車内体験を実現するという。
音声コマンドをベースに好きなエンターテインメントを楽しみながら買い物することができる。ステランティスのユーザーは、自宅のアレクサ対応デバイスなどから、乗車前の車内温度設定、サービス予約などの車両管理を行うことができるようにもなる。家と車の境界線がなくなり、全く新しい体験が提供されることが想定される。
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