(※写真はイメージです/PIXTA)

2022年、テスラがトヨタの純利益を逆転したことで自動車業界に衝撃が走りました。業界内で酷評を受け、赤字が続き、倒産の噂まで出ていた時期もあったテスラが急速に成長した背景には、稀代の起業家イーロン・マスクが抱く壮大な未来計画があります。みていきましょう。

2022年11月、自動車業界の勢力図が変わった

2022年11月に衝撃的なニュースが飛び込んできた。22年7〜9月期決算で世界の自動車業界の勢力図が変わったのだ。テスラの連結純利益は円換算で4542億円となり、トヨタ自動車(4342億円)を四半期ベースで初めて逆転した。第3四半期の販売台数はテスラが34万台に対して、トヨタ自動車が262万台となっている。いったい何が起こっているのであろうか。

 

皆さんはテスラに関してどのようなイメージをお持ちだろうか。最近でこそ日本でもテスラのEVが普及し始めているが、以前は、「格好いいEVがある」「ソフトウエアで車をアップデートするなんて面白い会社だ」、そんな印象だった。

 

だが実は、彼らの狙いは「世界の持続可能エネルギーへのシフトを加速する(Tesla's mission is to accelerate the world's transition to sustainable energy.)」という壮大なミッションを掲げている。彼らは当初からモビリティだけではなく、むしろもっと広いサステナビリティー全体での事業展開を強く意識していたのである。

 

本章では車体を中心としたモビリティ視点と、エネルギーも含めたサステナビリティー視点の両面からテスラの強さを見ていく。

7年前まで酷評されていたテスラ

数年前まで赤字続きで倒産の噂も出ていたテスラが、初めて年間通しての黒字(USGAAP基準)を達成したのが2020年12月期。21年度の当期純利益は7億2100万ドルと、トヨタ自動車の22年3月期決算短信における当期純利益2兆8746億円と比べると大きく差がある状況である。そのテスラが、自動車メーカーの時価総額ランキング(22年6月18日時点)では他社に圧倒的な差を付けて堂々の1位を記録している。

 

振り返ってみると、シリコンバレーD-Lab(※1)の活動を開始した16年当時は、テスラの時価総額は僅か2兆円程度であり、自動車業界関係者との話では、こんな反応も多く見られた。

※1:シリコンバレーで起きている変化を日本に伝えるため、現地在住・元在住の筆者らが中心となって2016年に立ち上げた有志活動プロジェクト

 

「テスラは車両としての完成度は低く、自動車の製造能力は既存の自動車メーカーの方が圧倒的に上。ニッチマーケットの支持を獲得しているだけで、彼らが市場を席巻することは難しいのではないか」

 

「コネクテッドといっても大きなタブレット画面が付いているだけで、実際のコンテンツが充実しているわけではない」

 

「販売台数は8万台弱程度であまりインパクトがない」

 

しかし、昨今のテスラの時価総額を考えると、これらの反応が“的外れ”だったことが分かる。テスラの時価総額、つまり市場の期待値が高まっている理由は、EVのパイオニアとしての評価や前述したモビリティサービスとしての体験価値の提供に加えて、バッテリーを基軸にしたエネルギー産業での取り組みなどへの評価があると考えられる。

 

《最新のDX動向・人気記事・セミナー情報をお届け!》
≫≫≫DXナビ メルマガ登録はこちら

次ページ「稼げる車」構想…なぜテスラのEVは好まれるのか

※本連載は、木村将之氏、森俊彦氏、下田裕和氏の共著『モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質』(日経BP)より一部を抜粋・再編集したものです。

モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質

モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質

木村 将之、森 俊彦、下田 裕和

日経BP

2030年の自動車産業を占う新キーワード「モビリティX」――。 「100年に1度」といわれる大変革期にある自動車産業は、単なるデジタル化や脱炭素化を目指した「トランスフォーメーション(DX、SX)」ではもう勝てない。今後…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧