「モノの移動」を制す、アマゾンのモビリティ戦略
まずは、図表1を見ていただきたい。検索と言えばグーグルが圧倒的なシェアを誇っているというイメージを持っている方が多いかもしれない。実は、モノの検索に関してはアマゾンが圧倒的なシェアを持つ。当初グーグルの方が高いシェアを維持していたが、モノの検索においては18年の時点でアマゾンがグーグルを上回り(※1)、2020年時点の検索シェアではアマゾンが半数を上回っている(図表1)。
※1:searchenginewatch.comより
ポイントは、モノにまつわる需要の起点をアマゾンが押さえているということである。当然だが、モノの購買需要は商品の販売およびメーカーにとって売り上げに直結する項目である。
ECにおいては注文を取れば取るほど売り上げも上がり、それに伴って配送網を充実させ、出店・仕入れ企業への価格交渉力が増し、品ぞろえの充実も可能となる。まさに最も企業が欲しい情報と言っても過言ではない。アマゾンはなぜこれほどまでにモノの検索において優位性を築くことができたのだろうか。
アマゾン vs. グーグル…オンライン生鮮市場の配送戦争
前述のオンライン販売ならではのロングテールによる品ぞろえ、アマゾンプライムでの顧客囲い込みやECの購買体験の継続的な強化などが大きな要因となっているが、優位性を決定付けるイベントがあった。アマゾンとグーグルによるオンライン生鮮市場における配送戦争である。
オンラインの生鮮市場は、2020年に約1000億ドルとなっており、全体で約7000億ドルで2あったECの約15%を占め、グローバルでは2025年に約2500億ドルに急成長することが想定されている。
購入単価こそ必ずしも大きくはないが、日常的な購買であり、リピート回数が非常に多い。需要を押さえるという観点では、まさにECの鍵といえる市場である。当然、モノの検索需要を把握するうえでも、ECの要となる配送網を押さえるうえでも非常に重要なマーケットとなる。
アマゾンは、「アマゾンフレッシュ」というプライム会員が利用できる食料品配送サービスを07年にシアトルで開始し、現在では全米の主要都市と世界の一部の都市にサービスを拡大してきた。顧客は、「青果」「精肉」「鮮魚」といった生鮮三品から、スナックや日用品まで、数千種類の商品から選ぶことができる。
これに対して、モノの検索需要と配送網が完全にアマゾンに握られてしまうことを脅威に感じたグーグルは、16年2月に競合となる配送サービスをスタート。即日配達サービス「グーグルエクスプレス」は、同社が試験的に提供していた「グーグルショッピングエクスプレス」というサービスを改名&有料化したものである。
当時、小売事業者はグーグルに加勢した。各小売事業者は、EC事業におけるアマゾンの影響力が強まっていることを敵視しており、モノの検索がアマゾンに一極集中することを恐れていたからだ。
グーグルエクスプレスは、ECの入り口となるクリック数や広告費でアマゾンに対抗するべく、グーグルの検索技術を活用してトップ小売事業者の商品を集めたウェブ上の仮想モールをつくった。ウォルマートやターゲット、ウォルグリーン、ベストバイなど、多くの顧客になじみのある大手小売業者を含む数千の小売業者の製品を検索できるという魅力で勝負をしたのである。
しかし、ローンチから数年経っても、グーグルエクスプレスはアマゾンを脅かす存在にはなれなかった。これには、グーグルエクスプレスのパートナー企業の離脱が大きかったとされる。ウォルマートやターゲットなどが、顧客の注文を直接オンラインで受け、配送までをシームレスに連携するサービスを開発し、自前化を図ったのである。
そうして19年にグーグルショッピングに統合される形で、生鮮食品特化のサービスとしては実質的な終了を迎えた。以上のようにECにおいて重要とされる生鮮食品市場においても、アマゾンは優位性を強固なものとした。
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