(※写真はイメージです/PIXTA)

EC市場で圧倒的な強さを誇るAmazon。その勢いはとどまらずドローンや自動運転事業における物流や在庫管理のアップデートを行い、事業競争力を強化しています。EC市場におけるAmazonの優位性構築の手法をみたうえで、異業種であるモビリティ産業への参入戦略をみていきます。

 

自動運転、ドローンで物流や在庫管理もアップデート

アマゾンはECでの顧客タッチポイントと、検索からモノの配送需要を得られる強みを生かしながら、物流や在庫管理でも最先端のテクノロジー導入、効率化することで優位性を強化している。一気通貫で構築した物流インフラのバリューチェーンを他社のECへも展開することで、より大きなビジネス規模を実現しながら、物流業ひいてはモビリティ業界のゲームチェンジを狙っている。

 

画像/ Shutterstock
[画像1]Amazonの配送車 画像/ Shutterstock

 

アマゾンは95年に書籍のECを開始した当時から顧客中心にサービスを考え、「Collection(品ぞろえ)」「Cost(コスト)」「Convenience(コンビニエンス)」という3Cを経営の中心に置き、推進を行っていたとされる。筆者はこれが物流の強化にもつながっていると考える。

 

まず品ぞろえに関しては、アマゾン直販以外の商品もできるだけそろえることで、顧客は多くの商品を比較して自分に最適な商品を選ぶことが可能となる。これがアマゾンマーケットプレイスである。これは、一般の個人や法人の出品者がアマゾンが提供するECプラットフォーム上で商品を販売できる仕組みだ。この一般の出品者の販売はアマゾン全体の半分以上といわれている。品ぞろえが増えれば増えるほど顧客の利便性が増し、注文が増えるというわけである。

 

2つ目のコストは文字通り価格低減であり、顧客が選択する際に基準とする最も大きな要素の一つである。この際の価格とは、商品の価格のみならず輸送コストも含めたものである。アマゾンは、リアル店舗に比べて場所代や販売員の人件費を抑えられる半面、商品を一人ひとりの自宅まで届ける宅配コストがかかる。そのため、宅配コストの削減が鍵となっている。

 

宅配コストの削減対策として、アマゾンは大量のデータに基づく効率的な在庫管理と配送を行っている。多くの注文を受けていれば、同じエリアの配送を取りまとめることができ、効率が上がるというわけである。

 

また、ラストワンマイル配送の外注化も行ってきた。物流拠点から自宅に届けるラストワンマイルの部分では、個別性が高く規模の経済が効きにくかったり、不在時の再配達などがあったりして効率化に限界がある。そこでアマゾンは、ラストワンマイル部分の多くを外部の配送事業者に委託し、自らは規模の経済で効率化できるところを徹底的に磨き上げている。この手法は非常に合理的である。

 

3つ目のコンビニエンスは、顧客の利便性である。これを追求することで、さらに注文数が増えることになる。こうした3Cのポリシーにより、結果として注文が増え、効率的な配送が実現され、さらに顧客の体験が良くなるという循環が回っているのである。

 

他社ECサービスの在庫管理・商品発送代行までサービスを拡大

このように着々と配送効率化を進める中で、注目すべきサービスが08年4月に開始した「フルフィルメント by アマゾン」である。アマゾンの物流と在庫管理の強みを生かして、他社のECサービスの在庫管理と商品発送代行にまでサービスを拡大したのである。自社事業で強みを構築したバリューチェーンの一部を外販する戦略であり、これは米国IT企業のプラットフォーム戦略の典型的なパターンである。

 

物流や在庫管理の効率化は、ECビジネスの競争優位につながっているので他社に解放したくないと考えるのが一般的だが、アマゾンは全く逆の発想を持つ。在庫管理と商品発送代行サービスを他のEC事業者にも解放することでさらに物量を拡大し、より効率的な配送を行うことが可能になった。

 

さらに、物流での優位性を高めたサービスに「アマゾンフレックス」がある。米国で15年に開始したサービスであり、日本では19年4月に正式に開始された。アマゾンフレックスは自由に働ける配達業務委託であり、ドライバーは自分でスケジュールを決めて荷物をピックアップし、顧客に届けるだけだ。どのくらいの時間働きたいか、いくら稼ぎたいかは自身で決定でき、自分のペースで働くことができる。

 

アマゾンフレックスの導入以前はラストワンマイルの配送の多くを他の宅配事業者に頼らなければならなかった。それをアマゾンは、自らコントロールできるインフラを持つことで競争力に変えてしまったのである。

 

アマゾンの「創造への情熱(Passion for invention)」は、配送領域にも表れている。倉庫内での優位性を強めるために倉庫内オペレーションおよび配送の自動化に対して積極的に投資を行っている。自社の物流センターの自動化に向けて、12年にKiva Systems(キバシステムズ)を7億7500万ドルで買収し、19年にはCanvas Technology(キャンバステクノロジー)を買収している。

 

また、直近の22年9月には、ベルギーのメカトロニクス企業であるCloostermans(クロースターマンズ)を買収することで合意に達しており、倉庫内オペレーションの最適化を追求している。

 

キバシステムズのロボットは、12年当時よりカメラとリアルタイム画像処理システムを搭載しており、物流センター内を自律して移動し、荷物を運ぶことが可能だ。アマゾンが09年に買収した靴のオンラインストア「Zappos(ザッポス)」や、2010年に買収したベビー用品の小売りである「Diapers.com(ディアピアーズドットコム)」なども、物流センターにキバシステムズのロボットを採用していた。

 

また、キャンバステクノロジーは15年に創業され、コロラド州ボールダーに拠点を置く。自律運転テクノロジーなどを手掛けており、屋内や屋外での運搬、製造分野に適したロボティクスなどのユースケース開発で先行している。倉庫内で用いられる自律走行型の運搬カートなどを提供しており、物流倉庫の効率化に寄与している。

 

自動配送実現に向け、スタートアップ企業を買収

ラストワンマイルの自動配送に向けても、アマゾンは手を打っている。2020年6月にカリフォルニアにおける自動運転の走行実績でトップ10に入っていた有力スタートアップZoox(ズークス)の買収を発表し、自動運転技術の開発を進めている。当時、買収価格は非公開だったが、12億ドルといわれている。

 

ズークスは14年創業。グーグルの親会社であるアルファベット傘下のWaymo(ウェイモ)や、ゼネラルモーターズ系のCruise(クルーズ)などが、既存車両にセンサーや演算能力を組み込む「調整型」のアプローチを見せていた中、ズークスは用途に応じた自動運転機能を提供するため、ソフトウエア、AIとともに専用車両を独自に設計、開発し、注目を集めていた。

 

アマゾンも自動配送を実現するため、独自の自動運転車両技術プロジェクトに取り組んでおり、小さな荷物を配達先の居宅まで運ぶラストワンマイル用にデザインされた6輪の自動配達ロボット「Amazon Scout(スカウト)」を開発してきた。そんなアマゾンがズークスを買収することで、ハードとソフトの双方で配送能力の拡充やコスト効率などに自動運転が寄与し、様々な面でアマゾンのビジネスを後押しする可能性がある。

 

その他にも、自動運転企業であるAurora Innovation(オーロライノベーション)への出資、自動運転トラックを手掛けるEmbark Technology(エンバークテクノロジー)との実証を行うなど、あらゆる形で配送手段の自動化に力を入れている。

 

また、アマゾンはドローンによる配送サービス「Amazon Prime Air(アマゾン・プライム・エア)」の開発にも熱心だ。安全性が課題となるため、業界トップクラスの識別、回避(Sense& Avoid)システムを開発し、他の航空機や人、ペット、障害物を安全かつ確実に回避しながら、より遠くまでドローンを安全に運行させることを目指している。

 

回避システムでは、飛行中の安全性と地上への接近時の安全性という2つのシナリオが想定されている。配送先まで飛行する際、ドローンは静止している障害物と動いている障害物を識別する必要があるため、アルゴリズムには物体検知のための多様な技術群を使用している。

 

このシステムによって、ドローンが煙突のような進路上の静止物体を識別することができ、人間には見えにくいところにある水平線上にある他の航空機のような移動体も検知可能になるという。障害物を発見した場合は自動的に進路を変更し、安全に回避することができる。

 

ドローンが降下して顧客の自宅の裏庭に荷物を届ける際、ドローンは配達場所の周辺に人や動物などの障害物がないことを確認する機能も備えている。

 

アマゾンは、FAA(連邦航空局)をはじめとする規制当局と緊密に連携しており、プライム・エアはFAAの航空会社認定を取得するための厳しいプロセスを経た僅か3社のドローン配送会社のうちの1社に選ばれている。カリフォルニア州ロックフォードで、アマゾンのプライム会員が、米国で最初にプライム・エアによるドローン配送を受けることになる見込みだという。

 

このように様々な技術を導入することにより、アマゾンは倉庫内オペレーションの効率化と倉庫外の配送効率化を目指している(図表2)。オペレーション自体を効率化することと、大量の需要情報を活用することによる効率化が相まって、アマゾンの配送領域での競争優位を構築している。

 

出所/シリコンバレーD-Lab第3弾リポートを改編
[図表2]モノの需要を把握し、物流全体を効率化するAmazon 出所/シリコンバレーD-Lab第3弾リポートを改編

 

以上のようにアマゾンが物流分野でどのように技術を開発し、サービスを拡大してきたかを見てきたが、最大の強みはそもそもの需要を押さえていることと、自らシステムを作り上げたことである。

 

アマゾンは、自社のECシェアに加え、アマゾン直販以外の一般の出品者を取り込みつつ、その宅配サービスも担うことで、圧倒的にモノの移動需要を把握する存在になっている。

 

顧客の接点を活用し、ビッグデータによる効率化を図る。アマゾンは検索履歴、お気に入りボックス、定期的な買い物や買い物リストなどを通して、それぞれの趣味や状況を把握できるので、顧客の発注予測を精度高く行える。これが効率的な配送につながっている。

 

さらにアマゾンは、積極的な技術導入で、在庫の量や配置、倉庫内の管理をすべてデジタル化・自動化している。加えて、物流に関してもズークスなどの買収で自動化を目指し、ドローンによる自動物流配送を狙う。購入される商品の予測に基づき、配送準備を先回りして実施することができるのである。

 

アマゾンはラストワンマイルまで自前で宅配の物流網をつくったことで、顧客ニーズから商品の在庫・流通まで一気通貫でサービスを提供する存在になっている。すでに単なるECのプラットフォーム企業を超えて、モノの移動を制する企業になろうとしているのだ。

 

一歩引いて考えてみると、アマゾンは徹底した顧客体験を実現するため、グーグルやアップルのように生活の中心プラットフォーマーになろうとし、14年にはスマートフォンの「Fire Phone(ファイアフォン)」を発売したが、失敗に終わっている。

 

スマートフォンのプラットフォーマーという真正面からの対抗アプローチはなし得なかったものの、スマートホームの観点では後付けデバイスをつなげていくことでアマゾンのプラットフォームが構築され、圧倒的な需要データの獲得ができるようになってきた。

 

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※本連載は、木村将之氏、森俊彦氏、下田裕和氏の共著『モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質』(日経BP)より一部を抜粋・再編集したものです。

モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質

モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質

木村 将之、森 俊彦、下田 裕和

日経BP

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